0-822 名前: 副作用は淫行で(にられば) [sage] 投稿日: 2005/12/24(土) 21:06:26 ID:YuWVkh3a

トントントントン
キッチンから響くその音に眠たそうに目を開ける直樹。
茉理だろうか?
「ううん、なおきぃ」
だが、茉理はここにいた。
直樹の胸の中に。
直樹は寝起きのボケッとした表情から一気に引き締まり青ざめる。
ガクブルものの直樹。
何も知らず直樹の上で寝ている茉理。
「あら直樹君、起きたの?」
ガクガクと震えながら、ぎこちなく振り向くとそこには英理が………
「直樹、ようやく起きたか」
余裕たっぷりに向かいのソファーで新聞を読んでいる源三。
そして、笑いながら直樹を見る。
「茉理もそろそろ起きなさい」
「ふぁーい」
眠たそうに顔をもたげる茉理。
「おはよう茉理」
「………おはよう、お父さん………えっ」
茉理は現状を確認する。
向かいには父の源三、キッチンに母の英理、そして自分と直樹は抱き合ったまま。
服を着ているが肉棒を挟み込んだままだ。
「熱いからって布団で寝ないと風邪ひくぞ」
「そうですよ、直樹君も茉理も………今度からはお部屋でするんですよ」
「あ、あ、あ、あぁぁぁ」
羞恥に打ち震える茉理。
「あ、あの、茉理さん?」
こわばった直樹が恐る恐る茉理を見る。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
そうして絶叫が家中に響き渡った。

「で、なんで二人は帰ってきたんだ?」
「そうよ、いきなり連絡も無しに………」
「いや、何でも学校の方から呼び出しがあったから二人とも知っているのかと思って。なぁ、母さん」
「そうですよ。でも、あらためて帰ってきて、家事が行き届いているみたいで安心したわ」
「茉理もいつ嫁に出しても恥ずかしくないな」
ニヤニヤとしている夫とそれとは対称的に天使の微笑みで直樹を捉える英理。
「後は孫だけだな」
「楽しみだわ」
「もうその話題は止めて!!」
赤面しっぱなしの若い二人だった。
だが直樹はこの時、保奈美がいたら更に事態が悪化していただろうと考えるのだった。



そして理事長室。
そこで渋垣家の面々に真相が語られた。
結が自分たちは百年後の世界からやって来た事を………
恭子がマルバスの恐ろしさ、滅びかけた人類を………
玲がこの学園がその避難先になっている事を………
オペレーションサンクチュアリの全てを語った。
百年後の世界が救われつつある事も………
そして、茉理をリハビリの為に百年後の世界に旅だってもらう事も………
そして数日後。
時計台のタイムマシンに着替えを積み込んだバッグを抱えた茉理と付き添いのちひろが緊張の面持ちで転送を待っている。
見送りに来ている直樹と源三、英理。
モニターをにらんでチェックを行っている結。
そして………
一瞬、光に包まれた茉理とひちろ。
二人の背中にはいつぞやの美琴と同じ翼が生えている。
そして光がはじけた次の瞬間には二人の姿は無かった。

直樹は毎日毎日、ちひろの代わりに温室の世話を行った。
茉理のいない放課後のカフェテリアに行くのがつらかった。
天文部席も既にそこには無い。
新入部員が入って部室が出来たからだ。
放課後にカフェテリアへ行く時は受験勉強をする時だけ。
渋垣夫妻はあの後、直ぐに中東に舞い戻った。
茉理と二人きりで過ごした家に帰ると一人きりでいることに耐えられそうになかった。
だから、ただひたすら勉強に励んだ。
茉理の事が気になって勉強に身が入らず受験に失敗したなんて言い訳が出来るはずもない。
たまに連絡があるものの茉理と話せるわけではない。
半年たって冬が訪れた。
だが茉理は帰って来なかった。
そして、受験が終わり大学に合格した。
春、直樹のキャンパスライフが始まった。
「なおくん、元気出して」
あまり、外には分からないように注意していたが保奈美に隠し事は無理だった。
弘司も口には出さないが何かしら感じているのだろう。
あれから一年が経った。



直樹は息を切らせて地獄の坂を駆け上がる。
(茉理が帰ってくる)
数ヶ月前まで通っていたこの坂を。
寮への分かれ道にさしかかるも見向きもせず、ただひたすらに学園を目指す。
学園からチャイムが鳴り響く。
校門を、桜並木を駆け抜ける。
時計台を目指して。
「おそーい直樹!」
そこには茉理がいた。
赤ん坊を抱いて………
「いやぁ、妊娠しちゃってたから遅れちゃった」
「大丈夫か!男か?女か?」
直樹は茉理の肩を掴んで激しく揺らす。
突っ走って酸欠気味なところに錯乱して何が何だか分からなくなっている。
「待ってよ〜茉理ぃ」
後ろからちひろが走ってくる。
赤ん坊を抱えて………
「双子でした〜〜〜」
再びやってきた衝撃にようやく我に返る直樹。

初孫ということで渋垣夫妻も帰国したいのだが仕事が忙しくてそれが叶わない。
茉理は復学したものの子持ちでは身動きできない。
そんなピンチに保奈美、美琴、ちひろ、柚香が頼みもしないのに助けてくれた。
そして毎日のように渋垣家に出入りする。
「久住くーん、おむつとってぇ!」
「ほーら、泣きやんだ」
美琴が助けを求め、保奈美が双子の片割れを抱いてあやしている。
テーブルを囲んで食事を取る。
「いただきまーす」
早速、おかずにむしゃぶりつく美琴。
バクバクと凄い勢いで食べていく。
「美琴、おまえ少しは遠慮しろ。おかげで家のエンゲル係数が騰がりっぱなしだ」
「それは、いかに食費を抑えるか主婦の茉理ちゃんの腕の見せどころだよ」
「保奈美さん、食費の浮くメニュー教えて下さい………」
そして、夕食を共にして彼女たちは月明かりと周りの家々の電気で照らされた渋垣家の門を通って帰って行く。
見送る直樹と茉理。
何も変わらない騒がしい日常。
変わった事が一つだけある。
変わったのは2人が入籍した事位だ。

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              終幕