0-556 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2005/09/25(日) 08:55:56 ID:eciHnKri

夜の町、慣れ親しんだ道を俺は歩いていた。
どこへ向かおうとしているのか?
何をしようとしているのか?
それすらも分からずに、ただ足を前に運び続ける。

「ハァ…」

ため息と共に切り替わる風景。
夜の暗黒を無数の光が鮮やかに彩っていた。


見慣れた景色をいくつも背後に残し、緩やかなカーブを描く蓮見坂に差し掛かる。
(……俺は一体何故ここにいるんだろうか?)

そう、何故―――?

ここに辿り着くまでに、何度も思い浮かべた疑問が頭をよぎる。
だが、その答えは分からない。
その先を考えようとすると、思考が止まる。意識が薄れていく。
そうして何を疑問に思っていたのかさえ忘れる。
そして思い出す。
その繰り返しだった。


ふと、休むことなく動かし続けていた足がピタリと止まった。



「…………」
三叉路。学園と俺の家と、そして蓮華寮と。
それぞれに続く道が分岐されている場所だった。

どっちへ進むんだ?
右か?それとも左か?
それとも引き返すのか?

俺じゃない俺が俺に問う。

右―――   蓮華寮へと続く道。
左―――   蓮美台学園へと続く道。
引き返す―――   

(……引き返す?)

――そもそも俺はどこから来た?

それは……自宅からだろ。

――自宅から?自宅ってどこだ?

自宅は自宅だろ?俺と茉理と渋垣夫妻が住んでる、あの場所だ。

――茉理?茉理って誰だ?

お前なぁ、いい加減にしろよ。茉理は―――   

――茉理は?

茉理は……  あれ? まつ…り……?



「な〜お〜き!いい加減に起きろ〜〜っ!!」

ゴスッ!

「ぐえっ!!」
突然の衝撃。ぼやけていた意識が、視界が、急速に色を取り戻していく。
訳が分からず辺りを見渡す。
知っている場所。知っている景色。知っている空気。知っている顔。
ん…?知っている顔?

「やっと起きた。ほら、今日は保奈美さんが風邪で学校休むって言ってたから、直樹もいつもの調子でいると遅刻しちゃうよ。」
「…………」
「聞いてるの?直樹。」
「なぁ…茉理?」
「ん?」
「茉理って誰だっけ?」
「………」

目の前に立つ金髪ツインテールの少女は薄く笑った。

ボフッ!ボフッ!

「痛てっ、痛てっ!なにすんだよ!?」
「まだ寝ぼけてるみたいだから、こうやって目を覚ましてあげてるのよっ!!」
どこからか引っ張り出してきたクッションで俺の顔を殴打してくる。

「待てっ!分かった!分かったから待て!」
「ハァハァ……どう?目が覚めた?」
複数回叩いた後、ようやく少女はクッションから手を放した。
「ふぅ〜、乱暴な奴だな。」
「直樹が朝から変なこと言いだすのが悪い。」

ツーンと膨れっ面を作り出し、そっぽを向く。
俺はそんな少女の顔をジッと見つめた。



茉理……そう、渋垣茉理。
年は俺の一つ下で、5年前、俺が両親を亡くした時から世話になっている渋垣夫妻の娘。
色々あって今は恋人同士―― という関係になっている。

「うん、そうだ。茉理……茉理……」
「な、なによ?呪詛かけるみたいに人の名前呟いて…。そんなに痛かった?」
「いや、気にするな。ちょっと呼んでみただけだ。」
「なにそれ?どこかで頭でも打った?」
「さっきお前に散々クッションで叩かれた。」
「それは関係なさそう。あ、直樹は元々か。」
「おいコラ。」

いつも通りの朝のやりとり。
この日も平和な日常通りに過ごせるはず―――  だった。


「じゃあ、あたしそろそろ行くから、直樹も遅刻しないでちゃんと来なさいよね。」
「えっ?あ、待てよ。一緒に行こうぜ。」
踵を返して立ち去ろうとする茉理の手を掴み、引き止める。
「一緒に?……別にいいけど、直樹からそんなこと言うなんて珍しいね。」
「何言ってんだ、いつも一緒に行ってるだろ?それに――― 朝の日課がまだだ。」
「朝の……日課……?」

何の事だか分からない。といった顔で首を傾げる茉理。
今更恥ずかしがっているのだろうか?
だが、俺にとっては茉理のそんな仕草一つも可愛く思えた。

「忘れたなら、思い出させてやるよ。」
「えっ?わっ!?」
言いながら、掴んでいた手をグッと引き、茉理をベッドの方へ引き寄せる。
バランスを崩し、俺の体の上にしな垂れかかってきた茉理の体を優しく抱きとめた。
「えっ?な……なお、き?」
「痛かったか?少し乱暴だったかもな。」
尚も目を白黒させている茉理の後頭部に、そっと手を添える。



互いの吐息が感じられる位の距離。
その距離を縮めていくように、ゆっくり添えた手に力を込めた。

「えっ?えっ?嘘…?ちょっ!なお――――…んんぅんぅぅ〜〜っっ!!?」

何かを訴えようとしていた茉理の口を無理やり塞いだ。
「んむぅ!!んん〜!んん〜っ!!!」
何が気に食わないのか?茉理は必死に声をあげながら抵抗するように首に力を入れていた。
しかし、逃げようとする茉理を首の後ろに回した手で押さえつける。
「んぐ……んぅ…んっ!ん〜!」
茉理が声をあげる度に、口の隙間からピチャピチャと唾液が零れだした。

(茉理……??)

茉理の異常な抵抗に、流石に不信感が募ってくる。
一体、何があったのか?
だが―――

(これだけ抵抗されると………逆に無理やりでも組み敷きたくってくるな……)