6-476 名前: 灰色 猫 [sage] 投稿日: 2007/04/30(月) 00:31:21 ID:q/1PtIZb

第2話 幼馴染は眠らない

 保奈美が目的地に向かう途上の商店街は、個人経営の店舗の多く、人通りがまばらに
なり始める時間帯には、ほとんどの店が店じまいをはじめていた。
 その中で、例にもれず店じまいをするフラワーショップの前で、保奈美は、足を止めた。
 バケツにいけられた小さな白い花が保奈美の気を引いたのだ。大きなポリバケツの中に
他の様々な種類の花とごちゃ混ぜにされていて『1本10円』とマジックペンで書かれただけ。
つまり、このバケツの中の花ならどれでも10円ということだろう。名前さえ記されていない、
ぞんざいに陳列された花だった。
「これ、いただけますか?」
 保奈美が白い花を指して注文すると、店の店主は、片付けていた鉢植えの花を床に下ろして、
「これですね?」
と、確認を取ってから、白い花をバケツの中からゴソっと取り上げた。
「あっ」そんなに沢山はいらない。と、保奈美が口を開こうとしたが、
「なぁに、サービスですよ」
 と、気前よく答えた。もともと売れ残りを寄せて集めたバケツだ。もったいつけて
余らせて捨てることになるよりはマシだ、というところだろう。
「あの、茎は短めで、お願いできますか」
「えぇ、いいですよ」
 店主はラッピングしようとした手を止めて、剪定バサミで茎をバサバサと切り落とし
始めた。
「このくらいで?」
「はい」
 店主は、再びレジの横にある作業台の上でラッピング作業を始める。
雪の結晶をあしらったビニールで包んでから、薄い水色のリボンで束ねるのだが、
複雑な形の結び目をスイスイと組んでいく様を見て、よく中年男性の野太い指がこうも
軽やかに動くものだ、と保奈美は感心した。
「ハイ! おまちどうさま。30円でいいですよ」
 バケツにいけてあった分を、ほとんど全部で、この値段である。予想以上の大サービスに、
保奈美の気分は軽くなった。
 代金を支払って店を出た保奈美は、歩きながら花の香りを吸いこむ。生の花の香りは
決して甘いだけのものではなかったが、
『でも、いいもん。可愛いから。なおくんはきっと喜んでくれるわ』
 そう思えるのが、藤枝保奈美という女の子の心根であった。
 やや小さめの、ブーケの様にこんもりとした花束を携えて。軽くなった足取りで
保奈美は商店街を後にした。

………
……


「ふぅーい」
 風呂上りの祐介がリビングに戻ってきた。
 火照った体にビールの一杯も流し込みたいところだが、生真面目な文緒の事だ。
きっと「お酒は20を過ぎてから!」などとつれないことを言うに違いない。
 そう思いつつも、祐介は冷蔵庫の扉を開けて中を探る。
「ねえ、ビール無いの?」
「もう。なに言ってる!? お酒は20を過ぎてからでしょ」
 キッチンの流しのところから顔を除かせて、文緒がたしなめた。
 全く、予想どうに応答に、祐介はおかしく思う。



 文緒がつけている水色のエプロン。二人の新居がここにきまった頃、近所の100円均一で
生活用品を慌ただしく揃えたときに調達したもので、見た目はそこそこだが、生地が薄く
造り自体はずいぶん貧相だった。落ち着いてから新しいものを買うまでの『つなぎ』
ということだったが、さほど実用性を欠くわけでもなく、今でも使い続けている。
 そのエプロンをつけた文緒は、夕飯の片付けの最中だった。
「片付けは、俺がやるのに…」
「いいのよ。家事をきちんとこなすのが主婦の勤めだから」
 そう言う文緒のしぐさは、どこか得意げだった。
「でも、作るのは文緒がやってるんだから、悪いって」
「あら、優しい旦那様ね。でも、10年後も優しいままでいてくれるかしら?」
「10年後も、20年後も、死ぬまで大切にするさ。オレは」
 そう言って、祐介は、洗い物をする文緒を眺める。
 エプロン姿で、袖をまくって洗い物をする文緒。
家事をこなす女性の吸引力。その源にある彼女から感じる包容力が、祐介の中で
欲情とは違った感情を呼び起こす。
つい最近まで友人でしかなかった、自分と同年代の女の子の家事をする様に、
まだうっすらと儚い感じだが、ふんわりと包み込まれるような錯覚をおぼえる。
そういうものにもっと、何重にも重ねて包まれたいという思いにかられた行動は、
決して卑猥なものではないと断言したいのだが、体現する方法が肉体のつながりに
行き着いてしまうのが、悲しい男の性である。
せめて、それは『純粋な下心』である、と申し開きしておきたい。
 祐介が、後ろからはぐすと文緒は「ひゃっ」と小さく悲鳴をあげる。まわり汚さない
ようにとの配慮から抵抗できずに、洗剤の泡のついた手を泳がせた。
『どうして女の体はこんなに細いのだろう?』
と思いながら、文緒の体を抱きしめる。文緒の首筋に鼻をうずめ大きく息を吸いこむと
文緒が「あ…」ともらして肩をすくめる。
「ちょっと、ダメ。まだ洗い物の途中でしょ」
「後にすればいいじゃないか。って言うか終わったら、あとでオレがやっとくよ」
「ダメよ。そんなの…」
 そう言って身をよじる文緒の体の上を弄っていた祐介の手が服の中に侵入を試みようとしたとき。
「ダメだってば。まだ、お風呂も入ってないんだから」
「むしろ、そのほうがいいんだよ。文緒の生の味が味わえるだろ? 今の文緒自体いいにおいするし」
 そう言うのに合わせて祐介は、肩、背中、腰とたどり、最後に文緒の股間へと鼻面を
突っ込もうとする。
「ちょっ!」
 さすがに絶えかねた文緒は、手早く洗剤を洗い流し、祐介の頭を押しのける。
「もうっ! ダメッたらダメなの! 無理やりしようとするなら、今日は一緒に寝ないから」
 文緒の剣幕に「本気で怒らせちゃったか?」と思いながらも、なぜ洗い物を中断させられた
くらいで、ここまで怒るか、とも思う祐介だった。
臭いだの、味だのといわれて羞恥を感じない女性は少ない。ただ、祐介には
まだそれがわからなかった。
"いい匂い""おいしそう"というニュアンスで彼なりに雰囲気を盛り上げたつもりだったのだが。
祐介が女性を理解しきれていないように、文緒も、まだ祐介に全てを預けられるほど
成熟していなかった。
 いささか腹の立った文緒ではあったが、しょんぼりした祐介を目の前にすれば、
腹立たしさが保護欲へと変わっていく母性があった。
「私だって裕介がほしいけど、それとこれとは別。やるべきことは、きちんとやらなきゃダメ!」
「…うん。わかった。(犯るべきことは、きちんと犯らないとな)」
「片付けがすんで、お風呂に入ったら… ね? だから、おとなしくまってて」
 文緒が、説得に成功したと思った時、



「じゃあさ。洗い物はオレがやっとくから、文緒は早くお風呂入っちゃいなよ。
そのほうが早くできるだろ?」
「………」
 文緒はもう呆れるしかなかった。下の話となると、男性とはこうも機転が利くものか。
普段、大雑把なところがあって、うっかり屋なところもある彼とは思えなかった。
 情熱的に愛されるのが嫌なわけじゃない。だが、やはりもう少し情緒的な色を含んで
ほしいと思いながら、裕介が口説き上手な男であっても、その軽薄さは好きになれず
寂しいとも思う文緒であった。

………
……



 結局、文緒は裕介に洗い物を任せて入浴することにした。
 洗い物を引き継いだ裕介ではあるが、ザブザブと食器をボールに沈め、汚れが目立つ部分だけを
スポンジでこすり洗いしたら、サッサと水道水で濯いでハンガーに伏せた。
「よし、終わり! ちょろいもんだ」

………
……



 寝室のベッドに腰掛けて首と愚息を長くして、文緒を待つ裕介。
彼は、文緒がさっとシャワーを浴びてすぐに来てくれるであろうつもりでいたのだ。
こんなことならもっと丁寧に食器を洗うべきだったと後悔し始めていた。思い返してみれば、
ずいぶん適当な仕事をしてしまったと思う。あれは間違いなく文緒の顰蹙をかう。
 食器洗いなどのために、愛の営みを先延ばしにするなど馬鹿げたことだという思いが、
半ば強迫観念のようなものとして、裕介を急かしていたのだ。
彼の妻、文緒は手抜きや、やっつけ仕事というものを非常に嫌う。
不完全な結果そのものよりも、そうなると知りながら、はじめから努力さえしようと
しない自堕落な発想を許せない生理が文緒にはあった。
 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。そう思っても、何もせずに待つという行為は、
とてつもなく退屈なことだと再認識させられる。
 それなら、文緒とのプレイをあれこれと計画すればいいではないかと思われるが、
決戦を前にした頭の中は、劣情に支配されていることには違いないのだが、モヤモヤと
湧き上がるそれは、不定形なもので、思考というよりは観念のような物であり、
ナニをどうしようなどと明確に形づいた妄想にまでは至らないのだ。
『そうだ。こんなときは素数をだな… イヤあれは動揺しているときか』
 動揺しているといえなくもない。
『なら、円周率を3.14156… ダメだ。これ以上覚えてない』
 この他にも彼は将棋、俳句などと時間をつぶす方法を試してみたが、どれも失敗に終わった。
「お待たせ」
 文緒が戻ってきて、裕介は我にかえった。
 戻ってきた文緒のパジャマ姿を、裕介はいぶかしく思った。裕介は、文緒がバスタオル巻きの
状態で、すぐにベットインできると想定したいたのだ。
 さらに追い討ちをかけるように、文緒は、ベッドの横にある化粧台の椅子に座り、
一度タオルで髪を拭いてから、ブラシで整え始めた。



 彼女の化粧台は、化粧台といっても引き出しのついた白い棚に、これまた100円均一で
買った鏡を置いただけの粗末なものだった。いつかちゃんとした物を揃えてあげたいと
裕介は思うのだが、「それなりに値の張るものだから、今ので十分」と、文緒はすっかり
家庭を預かる女になっていた。
「なぁ、文緒…」
 髪を整え終えた文緒が、保水液のビンに手を伸ばすのを見て、痺れを切らした裕介が
声をかけた。
「んん…?」
 保水液を塗り広げながら、文緒が横目で裕介を見る。「早く」と、急かしているのはわかっている。
だが、
「待って、今綺麗にしてるんだから」
『そんなの、すぐ乱れるのに…』
 そう思いながら、裕介はベッドに寝転び足をバタバタさせた。
 駄々っ子みたいな裕介のしぐさを可愛らしいと思いながら、文緒は腰をあげた。
「はいはい」
 文緒がベッドに近づくと、裕介が手を伸ばす。そして、文緒が手をとると、予想以上の
力で引っ張られ、彼女の体は簡単にベッドに転がった。
 裕介はすぐに文緒を抱きしめて、その唇に唇を重ねた。
 どちらからでもなく、相手の口内に舌を差し入れ絡めあえば、混ざり合った唾液が
お互いの口内に行きわたる。
唾液を通して伝わる体温は、舌や唇から伝わるときよりも、より自然に相手と一つに
なれるように思えた。
「ねえ、裕介。お願いがあるんだけど」
「なに?」
「コレつけて」
 ベットサイドをゴソゴソやりながら文緒が言う。
「コンドームじゃん? なんで? 俺たちもう夫婦だし、子供だって…」
 「もうできてる」。最後は言いよどんだが、文緒の腹を見ながら、裕介は言った。
「だからなの。妊娠中は、男の人のってあんまりよくないの」
「へぇー、そうだったんだ」
「もう、感心してないで。お父さんになるんだからちゃんと勉強してよね」
 呆れる文緒をよそに、裕介は不満をたれる。
「でも、さあ〜、やっぱ生のほうが気持ちいいんだよね〜」
「ふざけないの。父親になるってちゃんと自覚してるの?」
 裕介とて子供の大事に至るようなことまでしたいとは思っていなかった。ただ、避妊して
体を交えることがさびしいような気がして、期待はしていなかったが、せめて状況に報いようと、
だめもとでゴネてみたのだ。
 さて、ゴネついでに文緒をからかってみようという悪戯心が首をもたげてきた。
「ところで文緒。それなんて言うか知ってる?」
「し、知ってるわよ」
 文緒の些細なしぐさの中から、彼女の戸惑いを感じ取った裕介は、「しめた!」と、
思いつつ続ける。
「じゃ。言ってみ」
「…なんでよ。いいじゃない。別に、そんなこと」
「よくないさ。文緒がさっき言ったじゃないか。『ちゃんと勉強しろ』って。
コレも一つの勉強だろ? それにさ、道具を使うときには、その道具の特性を正しく
理解してから使うのが道理じゃん? なら、最低限名前くらい言えなきゃならないと思うんだ。
文緒がコレの名前をいえたら着けてすることにしようよ」
 女の子をからかうのはなぜこんなに楽しいのだろう。ノリにノッた裕介は、自分でも
驚くほど饒舌であった。



 それにより、文緒は裕介の幼稚な行動のなさんとするところが見えた。
「ほら文緒。言ってごらん。コ ン ド ー ム ?。もしくは、避 妊 具 ?」
「………」
「どうしたの文緒? カマトトぶってるその口で言ってごらん。コンドームって」 
「………」
 文緒は、素早く体をずらすと、裕介のパジャマのズボンのゴムを口で咥えてさげはじめる。
途中、勃起した裕介のペニスに引っかかりそうになるのを、ゴムを引っ張ってうまく避け、
局部が完全に露出するまでさげきった。
 文緒は間髪入れずに裕介のペニスを咥える。と、いってもごく浅く。亀頭の部分までを
口に含み、円を書くように舌を動かして周り一舐めするが、それきりでペニスから口を
離してしまった。
 文緒の不意打ち攻撃に、裕介は腰が浮きそうになった。
 口を離した文緒は、今度は裕介のペニスの根元を指でつまんで押さえつける。
血の流れをせき止められた肉棒は、血管を浮き上がらせプックリとカリを膨らませた。
 裏筋と亀頭の境目、背中側のカリ首、側面のやや背中よりと、裕介の弱いところを狙って
刺激したが、常に指先だけを使い、鬱血して敏感になった肉棒に強烈な快感を与えつつも
決して絶頂まで持っていかなかった。
 文緒は、鈴口から涌き出た我慢汁を、パンパンになった亀頭に塗り広げる。
摩擦が限りなく小さくなり、ヌルヌルと文緒の指の腹が亀頭を滑るたびに、裕介の
ペニスは文緒の手の中でビクビクと跳ね、再び文緒の指による洗礼を受け、また暴れ、
という無限ループにおちていった。
無限に続くかと思えた責め苦だったが、文緒は指を離した。
「付けるんならしてもいいんだけどなぁ…?」
 そう言って、指を口元に持っていく。
 文緒の指と、裕介の21本目の指との間でカウパー液が糸を引いた。
 文緒のプルリとした血色いいの唇の奥で白い歯が光り、その間から覗いた舌が指を舐める。
というよりは、カウパーで濡れた指を舌に擦り付けたと言ったほうが正しい。
 もちろんその間、目線は上目遣いのままだ。
 文緒の舌のヌラリとした光沢が、自身の我慢汁によって成されていると錯覚しかける
裕介に、文緒が促す。
「確認しておくわね。私は母親として生身では絶対にエッチしません。
でも、妻として付けるなら裕介としたいわ。…どうする?」
「くっ… 男子の面子にかけて、このような卑怯な責め苦に屈する方で、要求に
応じるわけにはいかない」
「ふ〜ん」
 そういって、文緒は指先で鈴口を引っ掻く用に刺激した。
「おうっ」
 裕介は、引きつらんばかりに、息子と腹筋を痙攣させながら、我ながら情けない声を
あげたと思う。
 文緒は、必死になって意地を張る裕介がかわいく思えた。もともと、きかん坊の手綱を
握るつもりで始めた愛撫だったが、手段が目的に変わり、行為自体が彼女の中に
征服感という興奮を生成しつつあった。文緒は意外とサディストなのかもしれない。
「そうだ! 口で付けてあげようか?」
「ゴム付でやらせいただきます!」
「………」
「………」
 即答する裕介に、さっき、男子の面子がどうこうと言った口が、よくも言うものだ、
と文緒は呆れた。
「…まぁ。いいわ…」



 意気揚々とした手つきで避妊具の袋を開封した文緒であったが、裏表を間違えそうに
なったり、付ける位置を決めかねたりと、まごついていた。
 経験がないのは当たり前として、先ほどのような高度な愛撫を披露した女性とは、
裕介には思えなかった。
 考えても見れば、あのテクニックもどうやって習得したのだ? マニュアル本を
入手したと考えるのが妥当ではあるが、気になるのはその方法である。
例えば、購入先の本屋において、弓道に臨むときのような凛とした態度で、マニュアル本を
選び、レジに差し出したのだろうか? やはり恥ずかしがって、サングラスにマスクという
ベタな変装をしていったのだろうか? どちらにしても可笑しいものだ。
 極めつけは避妊具のほうだ。名前を言うのさえ恥ずかしがっていた文緒だ。これはおそらく
変装していっただろうが、いひょうをついて、薬局で堂々と「コンドームください!」
などと店員に言ったのかもしれない。
 豊かな想像力の中で文緒を躍らせて、裕介は愉快で仕方がなかった。
 さて、裕介がそれだけの妄想を膨らませて時間を浪費しても、文緒の作業は一向に
はかどっていなかった。
 人の心と心が触れ合っていれば、技術的な未熟さがあっても、想いがそれを補って
お互い満たされることができるが、心のないただの物質に想いは通じない。愛おしい彼は
文緒の愛撫に答えてくれたが、ラッテクスの避妊具は文緒に冷たかった。
「文緒、できればこっちにお尻向けてくれないかな?」
「ん?」と、文緒が一瞬だけ裕介のほうを見上げる。
「いや、俺ばっかりしてもらうのも悪いから、文緒のほうの準備はオレがしてあげるよ」
 避妊具と格闘する文緒を見て、長丁場になるとふんだ裕介は文緒に声をかけた。
 一見、文緒を気遣うような口ぶりだが、実のところ文緒の頭越しに揺れるお尻に我慢
できなくなったのが本音なのだ。
「うん…」
 それにしても、直接的な表現ではなかったとはいえ、随分卑猥なことを頼んだと思う。
幸い文緒は避妊具に気を取られていて、素直に体勢を入れ替えてくれた。
 腿のあたりあった文緒の温もりと体重が移動して、股間が裕介の顔の上をまたぐ。
69の体勢だ。今まで文緒が恥ずかしがってなかなかさせてくれなかったプレイに、
裕介は内心小躍りした。
 だからといって、いきなり本拠地を強襲するのは野暮だ。それは、相手に対してもそうだし、
自分のためでもある。
 裕介は、手の平を使ってパジャマの上から文緒のお尻を撫で回した。
 突き出された女性のヒップというのは、普段から想像もできないくらい巨大なのだ。
今も文緒のお知りが裕介の視界を占拠している。
 今しがた抱きしめた体の華奢な抱き心地からは想像もできないのが、視覚を通すことで
修正されて認識された。
 そして、撫で回す手から伝わる触覚が、裕介の中で視覚と同調し、巨大さを
明確な思考へと昇華させた。
 直接手から受容される触角が伝える情報は、それだけに限らず、もっと感応的な分野に
溶け込んでいく情報も拾ってくれた。
 手を広げてそのお尻を撫でると全体がムニリと形を変える。文緒の尻が、いかに
肉厚なのかを物語っていて、それが、セックスアピールになるのも、男のものとは違って、
尻を構成する脂肪の層が非常に厚いからだ。力をこめて掴むようにしてもみても、
必ずもとの形に戻る。
 下着ごと文緒のパジャマのズボンをずり下ろすと、ズボンのゴムに引っかかって尻肉が
跳ねたように、裕介には見えた。
 裕介は、文緒の生のお尻を目にすると同時に、"文緒の匂い"が広がってきたように思えた。
シャンプーの香りと、甘酸っぱい女の子の匂い、それと生々しい臭いが混ざっていたのだが、
イヤな感じはしなかった。むしろ、吸い込んだ匂いが体中の血管を拡張したような感覚を味わった。



 文緒の生の尻に手を伸ばした裕介は、白いお尻の絹のような手触り楽しむ。そのやわらかさは
いまさら説明する必要はないのだろうが、滑らかな手触りが彼女のやわらかさを誇張して
感じさせる。
 馴染み深い感触が、いつもと変わりないことを確かめた裕介は、しばらく双丘全体を
さするように撫で回したあと、パジャマの中に手を突っ込んで背中をなぞる。
 文緒の背中から脇腹まで撫で回すと、「やんっ」と、文緒が悲鳴をあげる。
 同時に、息子に被せかかっていた避妊具が転がり落ちるのがわかった。
「あ! もう」
「ん? どうしたの?」
 なぜ、文緒が声を上げたのか知っていた裕介だったが、わざととぼけた。
「うまくいきそうだったの…」
 文緒が口惜しそうに唇を尖らせる。
 文緒は避妊具を拾い上げ、裕介のペニスの上に乗せると、再びそこに口をつけた。
 唇を使って、巻き上げられた"ヨリ"を戻しながらかぶせていくのだが、裕介のペニス
に対して避妊具が小さめなのと、四苦八苦する文緒を可愛いと思う裕介の意地悪で、
なかなかカリの膨らみを突破できないでいた。
 裕介は精一杯股間に力を入れて、カリを膨らませながら、文緒の秘部に指を這わせる。
 文緒のそこは、すでにパックリと花開き、内部は湿り気を帯びていた。
 裕介は、文緒がすぼめた唇を亀頭に押し付ける感触でタイミングを計って、唐突に膣内に
指を突っ込む。
「ひゃん!」と、文緒の悲鳴が上がり、被せかかっていた避妊具を元に戻るのがわかった。
「あぁっ、もうっ!」
「残念だったねwww」
「ねぇ、わざとやってない?」
「え? なに? "文緒の音"が大きすぎて聞こえな〜い」
 裕介はそう言いながら、文緒の肉壷内に入れた指2本をバタ足させるようにして、
クチャクチャと卑猥な音をわざと響かせて、とぼけた。
「やだ!」
 裕介の指を止めようと手を伸ばした文緒の指を、ハムッと口でくわえて制する。
「もう…」
 文緒が再び避妊具をかぶせ始めると、裕介は文緒の膣からゆっくりと指を抜きながら
その状態を観察した。
十分に濡れてそぼって、とろけそうになった膣の入り口のプリプリとした処女膜が、
裕介の指を濡らしているのと同じ液体でテラテラと光りながら、彼の指を吐き出していく。
指が抜けたあとの、ポッカリと開いた口がゆっくりと閉ざされていくの観察しながら、
裕介は、文緒の愛液で濡れて湯気を立てそうな指で、彼女の肉土手をふにふにとつつく。
文緒は恥丘上部の陰毛が濃いほうだったが、秘部の周りはキレイに無毛であって、
彼女のきめの細かい肌の滑らかさが顕著だった。
その肉土手に今度は口をつけ、唇でついばむように愛撫して、そのやわらかさを楽しむ。
そして、裕介は、また文緒の仕事が山場を迎えるときを見計らって、文緒のクリトリスに
吸い付いた。
吸い付かれてむき出されたクリトリスを、小刻みな舌の動きで舐め回され、間髪いれずに
文緒が悲鳴をあげる。
「やっ! ちょっと!?」
 強すぎる刺激から逃れようとする文緒の腰を抱えるように押さえ込み、裕介はなおも
愛撫を続ける。



「あっ、〜〜〜………」
 ビクリ、と文緒が下半身を痙攣させるのと同時に、彼女の膣口がキュッと口を結び、
内部の愛液がトロリと流れ出した。
 文緒が小さく絶頂を迎えた。
 文緒が快楽の波の中を漂っているあいだ、裕介は、ヒクヒクと震える花弁やその内側を
ゆっくり舌と唇でなぞった。
「む〜、意地悪…」
「なにが?」
「やっぱり絶対わざとやってる」
 くっくっくと裕介が含み笑いを浮かべているときだった。
 文緒は一瞬の隙をついて、裕介のペニスの上に避妊具を置き、勢いをつけて唇を押し付けた。
 今しがた余裕の表情浮かべていた裕介が、我に帰ったときには、振り返った文緒が、
勝利を確信して笑みを浮かべた。
「スキアリ」
 そして、うれしそうにそう言った。
 文緒の唇が亀頭を包むのは感じたのだが、そのときすでに避妊具はカリの膨らみを超え、
首の部分までかぶさっていた。まさしく裕介は隙をつかれる格好になったのだ
 状況を飲み込んだ裕介が舌打ちすると、文緒はウキウキとしながら残りをかぶせていった。
「はい、できた」
そう言って体を起こした文緒は、いまだ悔しそうな裕介の股間にまたがった。
「気分乗らないならやめよっか?」
「イヤ、それは…」
 自尊心を傷つけられても、なお下半身の欲求には逆らえない裕介である。
 形勢が逆転して、今度は文緒が裕介をいじめる番であった。
「裕介にも準備が必要よね」
 そう言って文緒は、裕介の肉棒にこすりつけるように腰をグラインドさせる。
「俺は、もう――」
 「準備はできてる」と言いかけた裕介の口を、文緒がキスで塞ぐ。
 文緒は悪戯の過ぎた裕介にお願いさせて見たかったのだ。だから今はそれ以外の言葉は
聞きたくなかった。
 一方、裕介は、相手を求めながらも、決して乱暴にしないのが文緒らしいと、思った。
 裕介は、口内を丁寧に探る舌に、自分の舌を添えるようにしてでむかえる。口内の舌が、
探し物を見つけたかのようにすぐに寄り添って、お互いに絡み合った。
 互いの口の中を行き来しながら、舌を絡め合い、唾液を混ぜ合う。こうして求め合って
いるときには必ず、己の舌がもっと長ければより相手と触れ合える、と思うのだ。
 離れた唇の間に引いた唾液に糸をすくい取るように、裕介の唇が再び文緒の唇に触れる。
 舌で相手の唇をなぞってから、唇で唾液を塗り広げる。文緒もそれに習って、裕介の
唇に唾液を塗りつけ、お互いの唇が唾液でテラテラと光る。なぜこんな行為で、エロスを感じるのか? 
人の官能とは不可解なものである。
「文緒… 文緒の中に入れたい」
「うん」
 当初は焦らして、裕介に少し意地悪をしてやろうとも思っていた文緒であったが、
彼の口から出たあまりにも素直な言葉に、ささやかな悪意は消えていった。
「動かないでね…」
 裕介の腹に手をついて体を支え、文緒はもう片方の手をペニスに添えて胎内へと導いた。
 文緒は、裕介のものを半分ほど飲み込んだところで腰を浮かせた状態で動きを止めた。
 中途半端にくわえ込まれる感触というのが、もどかしいことに間違いはないのだが、
裕介はそこに新鮮な快感も見出していた。



 文緒の肉壷に飲み込まれていない下半分がやけに空虚なのと、本来膣の奥にあたって
圧迫されるはずのペニスの先端部分もやはり物足りないのだ。それがアクセントになって、
膣内に挿入されている部分が媚肉のしごかれる感触を明確に受容した。
「激しくしたり、奥まで入れたりするのも良くないんだって」
「こう言うのも新鮮でいいさ」
「ありがとう。お父さん?」
 裕介が素直に身を引いてくれたことが嬉しくて、文緒は彼の鼻の頭にキスをした。
「お父さんか…」
 キスされたことか、お父さんという単語にかはわからなかったが、裕介は少し照れた。
文緒が腰を動かし始める。上下の入出ではなく、前後左右といった平面的な動きでだ。
「おぉっ」と裕介は口の中で感嘆した。先の、中途半端にくわえ込まれた感触の中から、
プリンとした媚肉にしごかれる感覚が強くなる。
文緒が腰を動かすたびに、入り口を支点にして、文緒の肉壁に横方向にしごかれる。
 更なる快感を求めて、条件反射で腰を使いそうになる裕介だが、文緒の手がそれを制していた。
もどかしさからは逃れたいが、逃げてしまえば快感を得ることはできない。蛇の生殺しとは
こういうことかと、裕介は思う。
 慣れない動きを続けていた文緒は、気づかないうちに呼吸が上がっていた。それが裕介には
上気したものからくると思えるのだから堪らない。パートナーを喘がせているとの認識が
精神的な面を高揚させるのだが、身体に与えられる快感は軽微なまま変わらず。
この解離がなおさらもどかしさを覚えるのだ。
 文緒は一度動きを止めてから、フゥとため息をついてから、今度は"の"の字を書くように
腰を動かし始めた。
 肉壷でしごかれていたペニスに、今度はひねるような回転運動が加わり、同時にペニスの
根元がよじれて未知の快感を生み出した。
 吐息を漏らして"の"の字を書くたびに、文緒の秘部は飲み込んだペニスとの間に隙間を作り、
短く糸を引いた愛液が静かにニチニチと卑猥な音をたてた。
 それは、裕介にとって想定外なものであり、堪らないものだった。
 裕介は、せっせと腰を動かす文緒の股間に手を伸ばす。
 目の前で未体験の痴態が繰り広げられているのを、いつまでも静観できない。
これが男性なのであって、何者にもとやかく言われる筋合いなどないと言いきれる。
 裕介を、文緒がパックリとくわえている結合部の上部で、文緒のクリトリスが包皮を
下から押し上げるように自己主張していた。
 裕介は、狙いを定めて人差し指と中指の間で"ソコ"をつまみ、指を少し曲げ気味にして
クリクリと扱いた。
 肉芽と包皮の間に含んだ愛液が潤滑剤となって、快楽の渦が容赦なく文緒を翻弄した。
 その影響は、裕介自身にも返ってきた。文緒の膣がキュッとしまって、裕介の愚息を
拘束したまま、ヒクヒクと緩慢に震えはじめた。
 裕介は、少し強くなったペニスへの刺激に期待を覚えたが、やはり絶頂へと達するような
ものではなかった。
さらに性質の悪いことに、文緒は腰の動きがおぼつかなくなっても、"の"の字を書く
円運動をやめなかったから、時折ビクリ体を震わせ、そのたびに半端に飲み込まれた
裕介の愚息は、文緒の肉壁に強くこすりつけられた。
その刺激も不定期で、一時的な快感はすぐにもどかしさの中に埋もれてしまう。
裕介は、クリトリスに伸ばしていた手を離し、文緒の腰に添える。
「なぁ、文緒… 意地悪しないでくれよ」
「え?」
 文緒にそのつもりはなかったが、裕介が焦らされていると感じていることに、愕然とした。
 もちろん裕介は、大方の予想通りの反応を見せる文緒にフォローを入れることを忘れない。



「これじゃ、ヤッパ、寂しいんだ」
 中途半端な肉体の結合に不満があるのでない。肉体の生理の奥にあるメンタルな部分が
満たされない。裕介は、文緒がこういったニュアンスの感じ方を好むのを良く心得ていた。
 文緒はしばらく考えてから、
「うん… 我慢してくれたし、ご褒美ね」
 「動いちゃダメよ」と、念を押してから、ゆっくりと腰を落とし始めた。
 1mmまた1mmと文緒が裕介を飲み込んでいく。
 文緒が、大きく股を開いた体勢で裕介の上にまたがっていたので、パックリと開いて
中が丸見えになったワレメが、ペニスを咥え込む様子がハッキリと見てとれた。
 文緒が大きくと息を吐きながら、腰を落としていくのにあわせて、その膣口がパクパクと
脈動するようにして、ゆっくりと裕介のペニスを飲み込んでいった。
例えるのなら大型の蛇が獲物を飲み込んでいく様に近い。
「ん… ぅん…」
 すべてを飲み込み、裕介の股間に腰をおろした文緒がため息をついた。
「やっぱり、こっちのほうがいいな。この包まれてる感じが落ち着く」
「我慢してくれたから、そのお礼ね」
「赤ちゃんのため?」
「うん。我慢してね、お父さん」
 そう言われれば、フフッと笑い声が漏れる裕介である。
 こうしてつながったまま動かずにいるもの悪い気はしない。柔らかな胎壁と文緒の体温に
溶けてなくなりそうになると、彼女の無意識の運動に鋭敏に呼応する胎内がわずかに
脈動して、繋がっている感覚を取り戻してくれる。快楽を貪るのとは違う、穏やかな空気がある。
 裕介は文緒の乳房に手を伸ばす。
 柔らかい感触を下からすくい上げると、文緒が安らかな表情で、力を抜いて身をゆだねてきた。
力を入れても、芯のない弾力で指を押し返してくる。頂きにあるピンク色の乳輪部分が
全体的に盛り上がり、その上で乳首が隆起していた。文緒の性的興奮が明確に見て取れる
サインだ。
上気する文緒を再確認して、裕介は指先で乳首をこねくる。固くなった乳首が根元から
折れ曲がり、クニクニと転がる感触を裕介自身も心地よいと感じた。
 今回の一件以来、ことあるごとに(保奈美より)小さいと文緒は嘆いていたが、
裕介はそうは思わなかった。客観的に見て、平均よりは極端に小さいことないだろうし、
手に収まるサイズに愛着も湧いた。
豊かな胸に永遠の憧れ手を抱き続けても、男は好きになった女の胸を一番好きになれるものだ。
それにしても、裕介はずいぶんとしつこく文緒の胸を弄んだ。
「胸好き?」
「ああ… ねぇ、オッパイってまだ出ないの?」
「うん? 出産間近になら出る人もいるけど、普通は赤ちゃんが生まれてきてからよ」
「えっ? そうだったの?」
「そう、まだ先」
そう聞いて、裕介は名残惜しそうに文緒の胸元から手を放した。
 文緒は、裕介の上にしなだれかかって身を委ね、口付けを交わす。顎から伝って唇へ
至るキスが合図になった。
 お互いに唇でついばむように求め合いながら、グラインドが始まる。
 といっても、ピストンというほど大きな動きではない。互いの股間を密着させたまま、
文緒が秘部を押し付けるようにして、尻肉の弾力の余裕分だけ上下動するのだ。
 主導権は文緒が握っていたが、裕介は決して悪い気はしなかった。文緒に言われたとおり、
あえて動きを止めたまま堪えていることがそれを示している。
 文緒のスロークの短い緩慢な動作は、それこそピッチリと裕介の愚息を根元から亀頭まで
包み込みこんだ。



 緩慢な動きだからこそ、裕介は文緒の胎内を明確に触覚したし、膣壁のプリプリとした凹凸が、
文緒の身体の動きにあわせて上下に扱き、特に竿とカリ首との境目をえぐるようにした。
 そのうえで血が集まって敏感になった亀頭をヒダがなぞり、規則正しく子宮口がコツコツと
叩いた。いっぽうで、文緒は膨らんだカリ首のえらで胎内をえぐられて、子宮口を叩かれた。
お互いに刺激がお互いを高めた。
先の半端な結合とは違い、こそばゆい刺激も霧散することなく射精へと蓄積されていく。
また、それは文緒にも言えた。常に股間をくっつける体位状、クリトリスが裕介の恥骨に
こすりつけられ、その刺激によって収縮する膣が裕介のペニスを締め付けた。
 媚肉に扱かれる感触と、定期的な締め付けに、裕介の射精感は確実に高まっていったが、
間際になって一気に登りつめていく通常の射精感とは異なり、激発できそうできないのが
口惜しかった。
 裕介の下半身に蓄積していく鬱憤は、愚息の硬さを増し、その愚息に最奥を突かれる
文緒の全身に、衝撃がビンビンと響いた。
 文緒が動くたびに、愚息の根元に溜まっていく快感が、激発しないまま精液が鈴口から
滲み出ているようにさえ錯覚された。
 裕介は、言いつけどおり自分から動くことはしなかったが、文緒を突き上げたい衝動を
精一杯堪え、代わりに彼女の身体を抱き寄せ、抱きしめる。
 息を荒くして身悶えする夫が、自分を抱きしめることが、可愛らしいと思わずにいられない文緒は、
それでも器用に腰だけをスライドさせ、エクスタシーに向けてその動きを一段と加速した。
 裕介は、文緒のお尻を片方の手で撫で回し、ヘコヘコとした卑猥な動きを察知しつつ、
精液が尿道からトロトロと流れ出しているのではないかと思いながら、いまだ射精できずにいた。
 自分を抱きしめる腕と、その硬さで胎内で存在感を示す裕介のペニスを確かに感じながら、
「裕介、愛してる!」
 文緒は抱きしめられたまま、両手で裕介の顔を押さえつけるように掴み、やや強引に
舌を差し入れて、絶頂に達する。
「くぅっ」
 文緒にしては乱暴なディープキスだとしか考える暇もなく、ビクリッと痙攣した文緒の
膣からの刺激で、裕介もようやく絶頂へと上り詰め、避妊具越しに文緒の胎内に精を放った。
 ドクドクと射精を続ける裕介のペニスに、オーガニズムを向かえ小刻みに収縮する文緒の
膣内は心地よかった。
 鬱憤や焦燥といった感情が身体から抜け落ち、透き通った感覚が二人のからだをみたしていた。
 ボウっと、する頭で、裕介は自分の腕の中の文緒の身体が、至極華奢なものだと改めて実感した。
 穏やかな雰囲気に包まれ、しばらくは二人で絶頂の余韻に浸り睦みあいながら、
「文緒、俺も愛してるよ」
 普段、口にするのは気恥ずかしかったが、このとき裕介は自然にそう言えた。



 文緒が身体を離して、裕介のモノを引き抜く。
「あ、やっぱり違う。流れてこないんだ」
 文緒が感心して言う。
「そりゃまぁ、そうだろ」
 裕介が出した精液はしっかりと避妊具に遮られていた。
「でも、この方が後片付けとか楽かも」
 裕介は、口にはしなかったが、SEXに対して文緒が即物的な感想を述べたことに
寂しさを覚えた。
 そのことを敏感に感じ取った文緒は、「ごめん」と一言謝ってから、
「でも、いっぱい出てるのね。普段拭いても拭いても漏れてくるわけだ」
 そう言いながら、精子溜まり溜まった精液を楽しそうに指先でつついていた。
 文緒が、ポヨポヨと精子溜まりを指の腹で押しつぶす。射精後の敏感になったペニスを
撫でられ、裕介が「オゥっ」と、うめく。
「うーん。今日は特別いっぱい出た気がする」
「そう?」
「焦らしに、焦らされたから」
 それを聞いて、文緒はフフンっと意地悪そうに得意げな笑みを浮かべるのだった。

………
……


 藤枝保奈美は、夫婦の営みを、最初からずっとベランダで眺めていた。
 自分以外の女が、大好きな直樹を誑かし夫婦ごっこをしている。なにより、あの女は
直樹の子供を身ごもっているのだ。
 平静な表情ではあったが、手にしたブーケの花を毟っては散らしながら、楽しそうに
会話する裕介と文緒を見つめ続けていた。
 ベランダの床には、無残に散らされて白い花びらが絨毯のように広がっていた。
白い絨毯の上に、すっかり花を毟られて茎だけになったブーケが転がる。
ダンッ!
 保奈美は、足元に転がったブーケを力いっぱい踏みつけて、グリグリと踏みにじった。
 裕介と文緒が眠るまで、保奈美は二人の様子を伺っていた。その間、彼女の表情が
変わることはなかった。
 その夜は満月で、直上で輝く月が青白い光を注いでいたが、それを浴びる保奈美の髪も瞳も
紅く灯って見えるのだった。