6-174 名前: もう幾つ寝ると……… 前編(にられば) [sage] 投稿日: 2007/01/03(水) 10:10:00 ID:oGGvQ5Nq

「今年一年、皆様が健やかであられる様………」
新年初日、エステルが教会で礼拝を締めくくっていた。
説法が終わり皆、家路についていく。
そして残ったのはエステルと達哉だけ。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」

手を繋いで居住区を抜けていく二人。
達哉が月の住人でない事は既にここでは結構知られている。
そんな達哉が司祭のエステルと付き合っている事も周知の事実となっている。
エステルは結局、地球に残る事を選んだ。
そして地球人と恋人関係にある彼女の事を良く思わない人物も結構いる。
それが余り表面化する事は無い。
地球に残っているカレンやスフィア王国に戻っていったフィーナのお陰でもある。

初めての地球の正月の風景を物珍しげに見つめている。
川原沿いを歩いている時だった。
「あれは何かしら?」
空を指差すエステル。
「ああ、月には凧が無いんだ」
「凧?」
「糸を付けて風に乗せて飛ばすんだ。日本だけじゃなく地球では結構ポピュラーな遊びだよ」
そして朝霧家での門前では………
「あら、葉書きが沢山………」
郵便ポストの投函口から葉書きが束で頭を覗かせている。
「姉さん宛の年賀状か………仕事上、付き合いが多いからなぁ」
「年賀状?」
「新年に友達や知人に挨拶の手紙を送るんだよ。因みに今ではカレンさんも送ってくれるんだ」
「………私も送ってみようかしら………」
彼女にとっての絶対神であるカレンがやっているなら自分でもやりたくなる。

「ただいま」
「お邪魔します」
朝霧家にあがる。
「皆様、明けましておめでとうございます」
リビングに入ると開口一番、エステルが挨拶とともに頭を下げる。
「明けましておめでとうございます。達哉君、ちゃんとエスコートしてきた?」
「だから遅くなったんだよ。ね、お兄ちゃん。あ、明けましておめでとうございます」
麻衣が興味深々に訊ねてくる。
「そうだ。ちょっと私の部屋に来てもらえるかしら、司祭様?」
そう言ってエステルの手を引っ張るさやか。
ふふふっと笑顔を浮かべている。
明らかに何か企んでいる。
「さ、行こう」
麻衣がエステルの背中を押す。
「時間がかかるからちょっと待っててね」
「あ、あの、ちょっと………」
有無を言わさず引き離されてしまう達哉とエステルだった。