6-147 名前: 神楽スキー [sage] 投稿日: 2006/12/29(金) 11:02:42 ID:6TppLWRd

「はぁ・・・・」

月人居住区の礼拝堂。地球に開かれた月のスフィア王国との交流の重要拠点に開かれたその場所で、その礼拝堂の司祭にして責任者であるエステル・フリージアが憂鬱げにため息をついた。
背中の半ばまで伸びた艶のある薄桃色の美しい髪が小さく揺れ、ラベンダーの瞳が僅かに悲しみに染まる。

――――達哉・・・・――――

その小さな胸に去来するのは、朝霧 達哉・・・・この夏に紆余曲折を経て想いを通じ合い、めでたく恋人になった大切な少年の名。
自分の地球人に対するあまりに狭量な偏見から解き放ってくれた人。自分の出生の秘密のショックから立ち直る勇気を分けてくれた人。

――――私は・・・――――

想い通じ合ったあの日からすでに半年がたっている。モーリッツから月人居住区の礼拝堂の責任者を引き継いでからの忙しい日々。慣れない立場とその重圧を時に励まし、時に支え合い二人の絆はさらに深まっていた。

――――私は達哉に甘えているのでしょうか?――――

だが、だからこそ恋人たちとしての蜜月の時は奪われ、二人の歳若い恋人たちの関係はキスから先には進んでいない。
聖職者としてのエステルの強い潔癖感からくる戸惑いや迷いも無論あり・・・・それがエステルの胸に重くわだかまっていた。幾度か達哉が自分を求めるような素振りを見せたとき、恥じらいと恐れから逃げるかのように誤魔化した事。

「このままじゃ・・・・いけないですよね」

誰に問うでもなく呟く。彼に身を委ねる事が嫌なのではない。むしろもう彼以外とそう言う事に及ぶなど考えも付かない。
聖職者 司祭という立場にあってもエステルとて年頃の少女だ。想い通じ合った恋人と結ばれたいという欲求は自然な想いとしてあり、眠れぬ夜にその身に燃える想いを鎮めるために、恥ずかしい場所に指を走らせたこともあった。

「それに・・・・」

達哉とてこんな自分を嫌になるかもしれない。考えたくもない想像がエステルの意識に浮かぶ。
彼の周りにはエステルから見ても美しい女性が多い。こんな堅物な自分を見限ってもっと達哉に相応しい女の人と・・・・両手で自分自身を抱きしめ小さく震える。いやだ・・・・彼を達哉を失うなんて耐えられない・・・・

「今日は確か・・・・聖夜祭でしたね」

地球で言うクリスマス・・・・奇しくも月神教でもまたその日は祝うべき聖なる日。
いくつかの地球の宗教が姿を変え、今の月の宗教を形作った事を考えれば自然な事だろう。自分と達哉の関係を進めるきっかけとしてはこれ以上の日はないかもしれない。

「・・・・・・・」

静かに閉じていた目を開き、懐から携帯を取り出すと、以前聞いていた達哉のプライベード番号のボタンを押した。



昼から降り出した雪が、深々と音もなく降り積もる。その雪明りに照らされる電気の消えた室内に無言で立つ二人。

「あ・・・・」

不意に純白の手袋に包まれた細腕が掴まれ、小柄な体が小さく震える。
暖かく広い手に包まれ決して不快ではない。むしろ心地よいとさえ呼べる熱が掴まれた部分から伝わってくる。自分が想いを寄せるその少年の体温に身を委ねたくなるが、同時に汚れを知らぬ少女特有の脅えに体が反応する。

「・・・・怖い・・・・かい?」

困ったような笑顔を浮かべる。自分が惹かれた優しい笑顔に胸がチクンと小さな痛みを発した。

「いえ・・・・」

ラベンダーの瞳を僅かに揺らし、それでも小さくかぶりを振った。
この少年になら全てを委ねられると想った心に偽りはない。身も心も任せられる。否、任せたい。この人と一つになりたい・・・・そこまで考えてエステルは顔を真っ赤にした。

――――わ、私はなんて破廉恥な事を・・・・――――

紅潮した頬を隠すように俯く。背中の半ばまで伸びる薄桃色の艶やかな髪が揺れ、俯いた美貌を僅かに隠した。

「だ、大丈夫・・・・です」
「エステル・・・・」

そっと名を呼びながら頬を撫でられ、俯いていた顔が上がる。
ラベンダーの透き通った瞳に映る少年の顔に鼓動が優しく跳ねた。・・・・静かに重なる唇同士、僅かに甘い声が小さな司祭様の可愛い唇から漏れる。

「無理をしなくてもいいんだよ? 俺はいつまでだって待つから・・・・」

別れを惜しむように唇が離れ、優しい囁きに胸を熱くしながらエステルは首を小さく振った。

「いいんです・・・・達哉。わたしを・・・・その・・・・」

雪の様に白い肌を紅潮させ言いよどむ可愛らしい恋人を見て達哉はそっと微笑む。
エステルのほうからこの事を切り出してきたときは驚き、同時にこれ以上なく嬉しかった。達哉とて健康的な男子だ。恋人である少女と肌を合わせたいと言う想いは人並みにはある。だが愛しい人を傷つけてまで急ぎたいとは思わない。

「本当に・・・・いいんだね?」

小さく。しかしはっきりと頷く少女に達哉も覚悟を決めると、そっとその小柄な体を抱き上げた。

「あ・・・・」

小さく漏れる声。横抱きにされた細い体を僅かに縮める少女に優しく笑いかけ、ベッドへといざなう。

ポスン・・・・

軽い音を立ててベッドへと沈むエステルの体の脇に腰掛け、もういちどその熱くなった頬に軽く手を当てた。
潤んだ瞳が少年を見上げ、しばし逡巡するように揺れ、静かに眼瞼を閉じると強張っていた全身から力が抜けていく。

キシ・・・・

軽く軋むベッドの音とともに二つの影はゆっくりと一つとなった。

「ん・・・・」

再び塞がれた唇の端から甘い吐息を漏らしながら、覆いかぶさってくる少年の体温と重みに小さく体を捩った。
そっと大きな手の平が優しくエステルの形良い胸の膨らみに衣服の上から置かれ、小さく体が震える。乱暴にならないように気遣いながら動く愛しい少年の手に、小さな性の炎がエステルの体の芯に灯されていった。

「あ・・・・ん・・・・」

衣服の上から優しく胸がさすられ、もどかしさにも似た切ない衝動が湧き上がって止まらない。



もっと触れて欲しい。もっと愛して欲しい。愛しさが生み出す欲求はエステルの心と体の奥から沸き起こりベッドの上で甘く鳴きながら小さく首を振った。

「達・・・・哉・・・・は・・・・ぁ」

甘い、甘い声に自分の名を呼ばれ、達哉もまた湧き上がる衝動を必死に堪えていた。
もはや自分の欲望は止められない所まで来ている。しかし、このまま欲望のままに突き進めばこの少女を傷つけてしまう。自分を選び初めてを捧げてくれるエステルに辛い目にあわせてしまう。

「ふぁ・・・・あぁ・・・・ああ・・・・うん・・・・」

首筋にそっと唇を押し当てられ、エステルは白い喉を僅かに反らした。ゆっくりとゆっくりと肌の上に降る優しいキスの雨に体の芯が溶け落ち、何処までも何処までも性に未熟な体は高まって行く。

――――私・・・・私・・・・こんな・・・・はしたない・・・・でも・・・・でも・・・・――――

初めてなのにこんなにも高まってしまう浅ましい体が無性に恥ずかしい。
いやらしい女だと思われないだろうか? 達哉からすればあまりに無用な不安が少女の胸に湧き上がるが、愛しい人に触れられ可愛がられる体はエステルの意など無視して何処までも甘く熱く切なく焦がされてゆく。

「達哉・・・・こ、こんな・・・・わ、私恥ずかしい・・・・です。・・・・あ、あぁ」
「恥ずかしがる事なんてない。綺麗だよエステル」

恥じらいに頬を染め、小さく身を捩る可憐な少女を安心させるようにキスの雨を降らせながら囁く。
恋人になり、いつしか呼び捨てで呼んでくれるようになった自分の名前。それがこんな風に優しく甘く呼ばれるとたまらなくなり、知らず涙が零れ落ちる。

「泣かないで・・・・エステル」
「も、もう・・・・あ、貴方の・・・・貴方のせいです」
「え・・・・お、俺の?」

そっと両手で頬を挟んで覗き込んでくる少年に、思わずそっぽを向いて拗ねた様に呟く。
とても貴方に優しく名前を呼ばれて嬉しかったから泣いたなんて言えない。そんな事をすればきっと自分は恥ずかしくて死んでしまうだろう。

「あ・・・・ん・・・・やっ・・・・た、達哉・・・・だめ・・・・」

そんなエステルに再び打ち込まれる快美の楔。
薄桃色の髪からのぞく小さな耳たぶにそっと口付けられ、優しく啄ばまれると堪らず甘く鳴き声をあげてしまう。敏感な耳の奥を熱い吐息が擽り、小さく背中が跳ねた。

「ふ・・・・あっ・・・・み、耳なんて・・・・あ、ああ・・・・」

長い髪を揺らしながら首を小さく振り喘ぐ。
黒の神官衣の胸に添えられた手も優しく動き、自分の中でずっと眠っていた官能を揺さぶり、目覚めさせ、恥らい戸惑う小さな司祭の若い体を熱く燃え立たせた。

「あ、ああ・・・・こ、こんな・・・・こんな意地悪ばかり・・・・やっ」

純白のシーツを掴み、押し寄せる官能の波に儚く身を捩って逃れようと足掻く。
しかし心も体も達哉を求めて止まない今の状況では意味を成さない。本当に駄目なら声を出してはっきり拒絶すれば達哉は止めてくれるだろう、だけどそれはイヤなのだ。恥ずかしくても怖くても今夜こそ達哉と先に進みたい。

「は・・・・っ、あっ、ああ!!」

エステルのしなやかな脚の間にそっと達哉の手が差し込まれ、バネの様に背中が跳ねる。
唇から漏れた甲高い悲鳴、紫水晶(アメジスト)の様な澄んだ紫の瞳が驚いたように見開かれ、体は襲い掛かる激感に小刻みに震えた。

「や・・・・そ、そこ・・・・は・・・・あぅん・・・・」

膝が思わず閉じて、柔らかな太股で達哉の手を挟み込む。

「エステル・・・・」
「で、でも・・・・こ、こんな・・・・」

想い人の優しい囁き。
その意味に気付き、戸惑い、迷い。それでもやがて観念したようにゆっくりと目を閉じ、脚を開いた。

「ん・・・・くぅ・・・・はっ・・・・ああ・・・・」



漏れ出る甘く美しい囀りに聞き惚れながらも達哉はそっと指を進める。
しっとりと僅かに湿った白い下着の上からそっと指を這わし、汚れないエステルの聖地に初めて触れる事を許された喜びと栄誉に浸った。

「あ・・・・あ、ああ・・・・わ、私・・・・こんな・・・・おかしくなってしまう・・・・」

初めて体感する甘い、甘い快美の波に溺れてしまう。
自分の肌に触れる達哉の指が、唇が、吐息さえ心地良さを生み出し、こんなにも自分をはしたなく鳴かせる・・・・それがちょっぴり悔しくて、それがとても幸せで・・・・愛しい人に贈られる快楽という名の甘美な美酒にエステルは何処までも酔っていった。

「エステル・・・・」
「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・?」

窓の外から時折漏れる雪が木から滑り落ちる音。
二人以外誰もいなくなったかのような静寂の中、力なく乱れた息を吐くエステルにそっと達哉が囁いた。ぼんやりと、濡れたラベンダーの瞳が少年を見上げる。

「・・・・はい」

その囁きの意味する事を悟り、エステルが小さく頷いた。

「・・・・恥ずかしい・・・・」

互いに一糸纏わぬ姿になった部屋に差し込む雪明りが照らす中、浮かび上がったエステルの裸体に達哉は息を呑む。恥じらいに自分の体を抱きしめ、達哉の熱い視線から逃れるようにエステルは体ごと横を向いた。

「・・・・・・あまり・・・・見ないで・・・・」

孤児院で育った幼少児ならともかく、成長してから、想い人とはいえ初めて異性の目に自身の肌を曝す緊張と羞恥が白い肌を赤く染める。

「あの・・・・その・・・・すごく綺麗だよ」

気の利いた言葉ひとつ言えない自分に苛立ちながらも出てきたのはやはりそんな平凡な言葉。
だがそれ以外思いつかなかったのも事実。完全に大人の女性として成熟していないとは言え、逆に成長しきっていない少女の生み出す清楚な色気が達哉の心を奪い去り、麻痺したように思考がはっきりしない。

「そ、そ・・・・んな・・・・事・・・・」

からかうなとばかりに耳や首筋まで真っ赤になったエステルが、涙目で達哉を可愛く睨む姿がなんとも可愛らしく、思わず達哉は笑みを漏らす。

「嘘じゃない・・・・綺麗だよ。エステル」

そっと細い肩に手を掛けて自分のほうを向かせると僅かに涙で潤んだ瞳が自分同様裸になった達哉の顔を見上げた。
恥じらい、不安に揺れる瞳。それを安心させる様に薄桃色の癖のない髪にそっと指を絡め優しく撫で付ける。

「ん・・・・」

それが心地よいのだろう。甘えたように喉を鳴らし、瞳を閉じ手の平に摺り寄せてきた。
しっとりと手の平に吸い付く肌理細やかな美しい肌に手を、唇を這わせ、そっと口づけを打ち込むと、いけないと思いつつも自分の所有痕をその肌の上に紅く残した。

「あ・・・・はぁ・・・・私・・・・う、ううん・・・・」

――――不思議・・・・――――

達哉の優しい瞳に胸を高鳴らせ、肌を這う手と唇に甘く喘ぎながらエステルは思う。
最初に会った時は地球に不案内な自分を親切に案内してくれた月人だと思っていた。次に会った時はフィーナ姫にさえ不遜な態度をとる地球人だと蔑視した。突然態度を変え嫌悪と蔑みの冷たい視線を向ける自分に戸惑っていた少年。

「ふぁっ・・・・あっ、やっ・・・・そ、そこ・・・・はぁっ・・・・」

誰にも許した事のない肌を這う達哉の指に、唇に、自分の身体が何処までも淫らに開花していく。

――――なのに貴方は・・・・そんなわたしを――――

どれだけ冷たい態度を取ろうと、拒絶の言葉を突きつけようと辛抱強く自分と向き合おうとしてくれた。
会えば会うほど自分の頑ななまでに地球人を拒んでいた冷たい心の氷を優しく溶かしてくれた。いつしか悔しいくらいに近くに居て、いつの間にか自分の中に入ってきて居て、勝手に大切な場所に居座ってしまった図々しい人。



「あ、あ、ああっ・・・・も、もう・・・・駄目っ・・・・あっ・・・・はぁ・・・・」

自分も知らなかった鋭敏な場所がそっと優しく撫でられ、口付けられ、達哉に愛される喜びにひたすらに酔った。

――――達哉・・・・――――

長年自分の中にあった地球人への嫌悪や偏見が完全に消えたわけではないと思う。自分の出生を知った今でさえ・・・・
それは他の多くの月人や地球人も同じだ。それでも、達哉となら・・・・この少年となら・・・・自分は変わっていける。他の人々も司祭として導いていけると信じられる。達哉と・・・・一緒なら・・・・

「いくよ・・・・エステル・・・・」
「・・・・」

真剣な瞳で自分を見つめる少年に無言で頷く。
恐怖はもちろんある。不安も羞恥も完全に消えたわけではない。それでもそれをはるかに上回る達哉への想いがエステルを突き動かした。達哉にもっと愛されたい。達哉をもっと愛したい。

「お願い・・・・や、優しく・・・・してください」

目を逸らし、耳まで赤くしたエステルが蚊の鳴く様な小声で懇願する。
達哉が自分を優しく扱ってくれるなど百も承知だ。例え何か間違って乱暴にされたとしても相手が達哉なら受け入れる覚悟はある。それでもやはり、自分の不安を隠せず閉じた瞼が小刻みに震えた。

「う、うん・・・・辛くなったら言うんだよ?」

そっと耳元でささやき薄暗がりの中、幾度目か解らない口づけを交し合う。

「ん・・・・」

小さく喉が反り、枕の上にエステルの小さな頭が押し当てられた。
身を裂くような激痛にぎゅっと固くシーツを握りしめた小さな手が小刻みに震え、両足は力いっぱい指まで真っ直ぐに伸ばされてゆく。

「う・・・・くっ」

悲痛な苦鳴を聞きながら愛しさと申し訳なさがない交ぜになった表情で、達哉はエステルの苦悶に歪む顔を見つめる。
どんなに苦心しても初めて異性を受け入れる少女の苦痛を消してやる事など未熟な達哉には不可能だ。逆に自分はエステルに包まれている様でたまらなく心地よいと言うのに・・・・

「あくぅ・・・・た、達哉・・・・達哉・・・・っ」

襲い掛かってくる破瓜の激痛から無心に達哉の名を呼ぶエステルの細い体を抱きしめ、少しでも痛苦が和らげばとその艶やかな髪を優しく撫で付ける。何かに縋るように伸ばした少女の細い両手が達哉の背中に回され、力が篭る。
絡み合う吐息、深まる繋がり、二人にとってあまりに長い時間が過ぎて行き・・・・

「あああああああああああああぁぁ・・・・っ!!」

やがて小さく何かを引き裂くような感覚とともに、エステルの背中が大きく仰け反る。甲高い悲鳴とともに僅かに達哉の背中に痛みが走った。

「あ・・・・つぅ・・・・」

エステルを抱きしめたままジっと動かない達哉の背中に走る赤い筋。

「大丈夫かい?」

そんな傷など気にした風もなくエステルを覗き込み、ただただ荒い息を吐く少女の身を案じる。

「はっ・・・・はっ・・・・達・・・・哉?」

涙に濡れたラベンダーの瞳が恋する少年を見上げる。その眼が自分を案じている事を悟り、ぎこちない笑みを浮かべた。

「へ、平気・・・・です。 これで・・・・わ、私は貴方と結ばれたのですね。」

荒く乱れた吐息が、漏れる押し殺した苦鳴が、少しも大丈夫ではない事を物語っている。
ただ、エステルにとってこんな苦痛などどうでも良い事だ。ただただ今は自分が何より大切なこの少年と結ばれた事が嬉しい。こんなにも自分は幸福感に包まれている。



「う、うん・・・・だけど・・・・」

それでも自分を心配げに見つめる心配性な恋人にそっと口づけると、エステルは達哉が初めて出会った時から惹かれ続けた優しい笑顔で微笑んだ。

「エステル・・・・つっ!」

少女と繋がった腰の奥から痺れるような快感がわきあがる。
情けないと思った。エステルとコレほど身も心も重なったというのに自分の身体はそれ以上を求めて疼いている。いまだ破瓜の痛苦に喘ぐ少女を快楽の赴くまま蹂躙したいと、己の獣性がわめいている。

「はぁ・・・・た、達哉? 苦しいのですか?」

激しい痛みに襲われているはずなのに自分を案じるエステルの優しさに胸が熱くなった。
だが、愛しさが膨れ上がれば膨れ上がるほどに、肉体はその相手との更なる深いつながりを要求してくる。動きたい・・・・この愛しい少女に自分の精を思うがまま解き放ちたい。けれど・・・・けれど・・・・

「達哉・・・・? あぐっ!」

身体は自然に動いていた。
理性がどれほど静止を呼びかけても、エステルの悲痛な悲鳴を聞いても初めて体感する快楽に酔いしれた肉体の暴走は止まらない。

「ご、ごめん・・・・エステル・・・・か、体が止まって・・・・くれない」

泣きたくなった。エステルの苦痛に反比例するように身体は正直に快楽を生み出す。
さらにそれが欲望のまま体を突き動かし、エステルに与える苦痛と引き換えに甘美な快楽を自分に送ってきた。

「あっ・・・・くぅ・・・・い、いいんです。」

激しく互いの体が揺れる行為の最中、そっと首に細い手が絡み、熱く乱れる吐息の中、囁かれる。

「あ、貴方の・・・・くっ・・・・お、思うがままに・・・・はぁ・・・・私の全ては・・・・あっ・・・・貴方に捧げたのだから・・・・」

痛苦に歪んだ・・・・しかし切ないまでの慈愛の笑み。やはり彼女は正しく聖職者なのだと思う。

「あっ・・・・くっ・・・・え、エステル・・・・・っ」

それでも身体は止まらない止まってくれない。何もかもが真っ白に染まっていく。

「うっ・・・・あっ・・・・達哉・・・・達哉ぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!」

壮絶なまでの快楽の海に溺れる意識の中、愛する少女が自分の名を呼ぶ声を聞きながら、全てを少女の中へと解き放ち、達哉は全身の力を失い倒れこんだ。

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」

自分の上に覆いかぶさった達哉の身体を抱きとめるように、その広い背に両手を回しそっと頬を摺り寄せる。

「エステル・・・・ごめん」

なんだかさっきから謝ってばかりな気がする。
それでも、どれだけ情けなくとも自分は謝らなくてはならない。自分が欲望のままに傷つけた少女に・・・・

「馬鹿・・・・謝らないで、私は貴方と望んでひとつになったのだから・・・・」

目の端に涙の浮かんだ・・・・だけど誰が見ても幸せに満ちた表情で達哉の頬を両手で挟み込む。

「軽蔑しないで下さいね。恥ずかしかったですし、怖かったですけど・・・・私は貴方とずっとこうなりたいと思っていました。」
「エステル・・・・」

達哉と結ばれた事、恥ずかしい告白をした事、その両方に頬を赤らめエステルが微笑む。
時に儚くて、か弱くて、ずっと傍で守って行きたいと思っていた女性(ひと)が、時折こうして見せる強く眩い心の輝きにどうしようもなく魅せられた。


「だから気に病まないで下さい。・・・・達哉。貴方を愛しています。」

幾度となく思ったことだが改めて思う。
エステル、フィーナ、ミア、リース、カレン・・・・いや月の王国の女性だけじゃない。菜月、さやか、麻衣、翠。自分の知る女の人達のなんて強い事か? 守るつもりで実は自分が一番非力な気さえする。

「俺も・・・・」

そんな少女が、今は自分だけの為に、微笑んでくれる。甘く囁いてくれる。愛してくれる。

「俺も愛しているよ。エステル・・・・」

重なる熱い唇。白き雪降る聖なる夜。
初めて結ばれた恋人たちを祝福するように輝く雪はいつまでも降り続いた。


<終わり>