6-130 名前: 4枚切りの触パン [sage] 投稿日: 2006/12/26(火) 06:20:29 ID:LCd4ry+d

「よう、フィーナちゃん。 今日は生きのいいキャベツが大量入荷してるぜ」
今にして思えば、これがケチの付き始めだったのではないかと思う。

学園から一度家に戻り、菜月や翠と商店街へと繰り出したときのことだった。
八百屋のおじさまが元気良く、私たちに声を掛けてきた。
なんでも新鮮な取れたてキャベツが大量に入荷したのだとか。
キャベツ。
ただ普通に聞いていると、何の変哲もない緑黄色野菜の一種の通り名に聞こえるのだけれど
私、フィーナ・ファム・アーシュライトにとっては、別の意味も含まれている。
あの忌まわしいアニメの第3話。
予定ではアニメ化されたあとにコンシューマ移植版の発売も行われ、私の人気も知名度も
鰻登りになるはずだった。
なのに、あの第3話ときたら・・・・
私は心の中でハンカチを思いっきり噛みしめ、悔しさを紛らわせる。
おかげで評判は地に落ち、私の王女としての名声も威厳も、もはや降下の一途を辿るばかり。
PC版中古の価格も、同時期にアニメ化されたどこかの魔法学園もののエロゲ版よりも下回り
今や影では私のことを「キャベツ姫」などと囁く輩もいる始末。
だから八百屋のおじさまからそんな声を掛けられたときには、一瞬ギクリとしたものだった。
「あ・・・、あの私、ちょっとキャベツは苦手で・・・」
たぶん、頬が少しばかり引き吊っていたと思う。
それでもやんわりと、笑顔で返す。
「そうかい? 残念だなぁ、キャベツは繊維質の塊だから、便秘には持ってこてなのに」
「ちょいとアンタ、そりゃ女の子に失礼だろっ」
すかさず向かいの魚屋のおばさまからのツッコミが飛んできた。

そんな有り触れた、他愛もないやり取りを終え、私たちはそれぞれの家へと帰途に付いたのだけれど・・・
この日の夜。
高見沢家の晩餐の席に付いた私は、さらにギョッとするはめになった。
それは、まかないの並べられたテーブルの上には、一面のキャベツ料理が並んでいたから。
キャベツサラダにロールキャベツ、キャベツの千切りに豚コマとキャベツの炒め物。
右を見ても左を見ても、キャベツ、キャベツ、キャベツ。
端から端まで青虫の好みそうな緑色の葉が、姿を変え味を変え、私の目を染め上げていた。
「おや? どうしたんだいフィーナちゃん」
仁さんが私の顔を覗き込んでくる。
「本当、どうしたのフィーナ?」
菜月も心配そうな眼差しで大丈夫かと聞いてきたのだけれど、私は顔を上げることができないでいた。