5-722 名前: はにはに 祐介×文緒その3 [sage] 投稿日: 2006/12/11(月) 17:44:53 ID:KFlIEVgB

「もう探したんだよ、なおくん」
 保奈美が手を差し出す。生気のない顔で。制服姿で。
「さ、帰ろう。みんな心配してるよ」
 保奈美は直樹の幼馴染で恋人。急にいなくなって心配するのは当然だ。だが、
「俺は直樹じゃない。祐介だ」
 祐介はその手を取らなかった。彼の手は固く隣の少女に握られている。祐介の恋人の文緒の。
そしてそのお腹には祐介の子が宿っていた……。
「なに言ってるの?」
 保奈美がぽよよんと首を傾げる。イタズラした子供を優しく叱る母親のように。
「なおくんは、なおくんだよ。さ、行こう」
 そして祐介の手を取る。固く文緒と握られた手を。
 途端、ビクッと祐介は震えた。その震えが文緒にも伝わる。
「違う!」
 突き飛ばすように手をどかし、文緒も大きく腕が振られた。
「俺は祐介だ。直樹じゃない」
 もう片手で寮の部屋の扉を閉める。過去との決別。
「行こう。文緒」
 そして手を繋いだ文緒と歩き出す。新しい未来へ。
「待ってよ……」
 その前にまた保奈美が立ちはだかった。祐介が捨てた久住直樹としての過去の象徴。

 これは乗り越えなければいけない試練なのか?
 直樹ではなく、祐介として生きる為に。

「ふ、藤枝さん」
呆然としていた文緒が口を挟む。彼女は本来、しっかり者の委員長だ。
「この人は久住君じゃないの。祐介君て言ってね。とっても似てるけど別人なの……」
「ふーん。秋山さん何も知らないのね」
「え?」
 その瞳に射すくめられ、文緒はビクッと身をすくめた。剣呑な炎を宿した保奈美の瞳に。
「なおくんと、祐介君はね。同じ人なんだよ」
「な、何言い出すの……」
「駄目じゃない、なおくん。ちゃんと説明してあげないと」
 クスクス、と小さな声で保奈美は笑う。どこか壊れた声。
「でもね。今、祐介君はいないの。なおくんと一緒になったから」
「違う!」
 たまらず祐介は否定する。己の中の葛藤を無理矢理抑え付けて。
「いなくなったのは直樹だ! もう俺は祐介だ!」
「認めない……」
「保奈美……」
 ゆらっと保奈美の背中から黒い炎が湧き立ったようで。祐介は一歩引いてしまった。
その手をぎゅっと掴む手。その暖かさに祐介は気付く。自分は一人じゃない。
「違う……」
 今度は文緒が言う。事情はよく分からないが。
「この人は祐介君よ。久住君じゃない。藤枝さんの恋人じゃないの」
 そして手を握るだけでなく腕を絡めた。
「私の恋人なの」
 そういや、口ではっきり恋人といったのは初めてかもな。
 その肩を抱き寄せ、祐介も言う。
「そうだよ。俺は祐介で、恋人は文緒だ」



「イヤーっ!」
 突如保奈美が金切り声を上げ、耳をふさいで頭を振る。彼女の長い髪が乱れた。
いつもは綺麗に手入れしているのにどこか痛んでいる感じの髪。
「違う! 違う違う違う!」
 そして耳から手を離すと、暗い炎を湛えた瞳で二人を見た。しっかりと固く結ばれた恋人を。
「わたしだもん……。なおくんが、好きって言ってくれて、抱いてくれたのは、わたしなんだから……。
ねえ、どうしてその人なの……? どうしてよぉ。赤ちゃんが出来たからぁ?」
 保奈美が一歩進むたびに、祐介と文緒は一歩下がる。
 はっきり言って、怖い。

「返してぇ……なおくんを、かえしてよぉ……。
 わたし、なんだってするよ。うん。なんでもする。
 いくら抱いてもいいよ。子供だってたくさん産む……。
 そう……。そうだよ。ねえ、子供作ろう。そうすれば、なおくん戻ってきてくれるよね」
 ばっと制服のスカートを捲れ上げ、保奈美が中を見せつけた。

 パ ン ツ は い て な い 。

 そしてその肉の割れ目はテカテカと濡れている。
「ほら……。わたしのここ、もうこんなになってる……。ねえ、子供欲しいの。
ううん、なおくんが欲しいの。ねえ、ちょうだい。ねえ」
「ほ、保奈美……」
「藤枝さん……」
 呆然と、ただ何も言えず祐介と文緒も見ているしかなかった。

 直樹を失ったのがこんなにショックだったとは……祐介にも全く予測できなかった。
「ねえ……子供作ろう……」
 寮の廊下を保奈美が進み、祐介と文緒が後ずさる。だが逃げ場などない。
 祐介の腕を握る文緒の手が震えている。そのお腹には子供。

 ぶん殴ってでも先に進む!

 祐介がそう決めて拳を固めると、
「藤枝!」
 鋭い叱責のような声が響く。
 白衣を着た女性が保奈美の背後に現れた。恭子先生だ。
「落ち着け、藤枝」
 そして保奈美の手を握って落ち着かせようとする。
「どいて先生! あの女殺せない!」
「落ち着け!」
 怒鳴りながら、二人に視線を向け、
「寮の外に」
「は、はい。行こう文緒」
 文緒の手をしっかりと握りながら、祐介が駆け出す。
「う、うん」
 何が何だかよく分からないが文緒も手をしっかりと握り、走り出した。
「待って! 行かないで! なおくん!」
 保奈美の悲鳴を背に、二人は走る。
 それは新しい未来への門出。
「イヤアアアアアアアアアアアァァァァァーっ!!!」
 捨てられた保奈美の悲痛な叫びが寮に響き渡った。



「二人とも。乗ってください」
 寮の前に来ると結先生が待っていた。小型の黄色の丸い車に乗って。
まるで小学生の女の子が無免許運転しているようだが、結先生はちっちゃくてもれっきとした大人だ。
「う!?」
 一瞬祐介は迷ったが、文緒は迷う事無く進む。
「行こうよ。結先生なら大丈夫」
 結先生は文緒の担任だった先生だ。だから信頼できる先生だとよく知っている。
それは直樹の記憶を持つ祐介も同じだった。
「あ、ああ……」
 それに迷っている場合ではない。
 恭子先生といえど、いつまで保奈美を阻止できるか……。今こうしている間にも、恭子先生を血の海に沈めているかも。
そうなったら今度は自分たちの番だ。いや自分はどうなろうが構わないが文緒とお腹の子に罪はない。
 小さな車に乗り込み、祐介と文緒は身を寄せ合うように座った。
「先生。行ってください」
 すぐに結先生が車を発進させる。
 後方に流れ、見えなくなる寮。そして蓮美台学園。
 文緒は後ろを見て、ぺこっと頭を下げた。
「さようなら……。ありがとう」
 眼鏡の奥の瞳がキラッと光る。
 その肩を抱いて、祐介もまた頭を下げた。
 今は祐介だが、直樹が世話になった学校だ。
「また……逢えますよ。みんなとも」
 運転しながら結先生が言う。かなり危なっかしいが事故だけは起こさない。
 担任だった彼女にとって、祐介(直樹)と文緒は今でも大事な生徒だ。
「あの、先生。どこに?」
「うふふ。任せてください」
 ニコッと微笑んで結先生は車を走らせる。
 その姿は玩具の車を運転する小さな女児のようだ。だがこの車は本物。
さっきから大きく車が揺れてるような気がする。真っ直ぐ走っているだけなのに。

 ―無事に生きて戻れますように。

 祐介は祈らずにはいられなかった。

「ねえ。私たち生きてるわよね」
「ああ。生きてる」
 車から降りた文緒と祐介はひしっと抱き合い、生きてる事を実感した。
 生きてるって素晴らしい。
「ふふ。二人とも大げさなんですから」
 そして運転手の結先生が二人に前方の建物を示す。
「ここが、今日からあなたたちのお家ですよ」
「え?」
 目の前にそびえ立つのは高層マンション。
「はい。私と恭子からのせめてものお祝いです」
 ふふっ、と結先生は笑う。顔に似合った可愛い笑顔で。
 呆然としている祐介と文緒。祐介がようやく口を開く。
「い、イイんですか?」
「良いんです、これも元々はオペレーション……用ですから」
 文緒がいるのに気付き、結先生は言葉を濁してにこにこと笑った。誤魔化すように。



 文緒の妊娠を知った直樹が、祐介として生きる決心を固めた時。
 彼はまず恭子先生に相談した。祐介が相談できる相手が彼女だけだったからだ。
まさか姉の美琴には話せない。いつか落ち着いたら話そうとは思うが。
 幸い、恭子先生はまだ未来には帰らず、蓮美台学園の保健医をしていた。

「そう……」
 話を聞いた恭子先生は、コーヒーカップを降ろして正面から直樹を、いや祐介を見据える。
彼は私服で学園に来ていた。もう学園を辞めたという事でもある。それに元々祐介はこの学園の生徒ではない。
「それで……後悔はないのね?」
「はい」
「久住直樹としての人生を全て出来る……。本当にそれでいいの?」
「はい」
「藤枝も?」
「はい!」
「そう……」
 再びゆっくりと息を吐く。
「でも、赤ん坊を育てるのも大変よ。あなたたちはまだ若いんだし」
「だから行くんです。文緒を1人には出来ません」
 迷う事無く祐介は言う。瞳を真っ直ぐに逸らさず。
「よし。分かった」
 彼の決心が本物と分かったのだろう。恭子先生も決めた。
「こっちでも可能な限り支援するわ。だからあなたはまず秋山に逢いに行ってやりなさい」
「え?」
「今、寮の自分の部屋を掃除してるわ。顔を見せて安心させてやりなさい」
「は、はい!」
 飛び出すように祐介は保健室を飛び出す。その背中を見ながら、恭子はニヤッと笑っていた。
 そして祐介は逢いに行く。寮にいる文緒の元へ。そして二人は再会した。

「はーい。こっちですよ」
 結先生に案内されて祐介と文緒は、オートロック式の高層マンションに入って行った。
セキュリティも万全。
 その十階にある一室に二人を案内して入れ、結先生はカチッと電気を点ける。
「わぁ」
 新品の4LDKマンションの部屋はピカピカに輝いていて。テーブルや椅子がちゃんと置かれている。
「一通りの物は置いてあります。ここで暮らすことを決めたら荷物はあとで運送させましょう」
 担任だった結先生がかつての教え子を見上げ、
「気に入ってくれました?」
「は、はい……」
 呆然と頷く祐介。ここまでしてくれるとは思わなかった。
「で、でも……。どうしてここまでしてくれるんですか?」
 もっともな文緒の疑問。
「えーと……久住くん、じゃなくて祐介くんにはいろいろと手伝ってもらいましたから。そのお礼です」
「手伝い?」
「ふふ」と笑う結先生。笑って誤魔化すつもりだろうか 。
「ま、まあとりあえず」
 結先生はパンと手を叩いて、
「お茶にしましょう」



 一通り揃っていると言ったとおり、お皿やコップ、冷蔵庫、ベッド、カーテンなどは揃っていた。
ただしTVと電話などは無い。後で持ってこようと文緒は思った。
 結先生と文緒でお茶を淹れ、三人でテーブルに座って飲む。
 二人揃って仲良く座る祐介と文緒を、結先生はニコニコと笑顔で見つめ、椅子からぶら下がる足を揺らした。

 こうしているとまるで親子だ、ち祐介と文緒も思い、自然に顔が赤らむ。もちろん子供は結先生。

「どうしましたか?」
「い、いえ……。なんでも」
 それからしばらく無言の時間が続く。聞きたい事はいっぱいあったがどうしても口が開かない。
 でもそれでもいい、と文緒は思った。こうして祐介君が側にいるから。
 彼をすぐ近くに感じる。それだけで幸せ。

「お腹の子……元気に育つといいですね」
「あっ……。えっはい」
 結先生に言われ、文緒は申し訳なさそうに頭を下げる。
 妊娠して学校を辞めるとき、結先生は最後まで引き止めてくれたのだ。

「妊娠してても生徒は生徒です」

 結先生はそう言って文緒を引き止めてくれたが……やっぱり文緒は退学を選んだ。
 それが今でも申し訳なく思っている。ニコニコ笑っている結先生は気にしていないだろうが。

 ピンポーンと玄関のチャイムが鳴らされる。
「はいはーい」
 結先生が玄関のモニターを見ると恭子先生だった。

「大丈夫ですか!?」「きゃっ!?」「恭子!?」
 恭子先生の姿を見た途端、誰もが思わず声を上げてしまう。。
 白衣はボロボロに破れ頭にはグルグルと包帯を巻き、左腕はギプスで固く固定していた。
さらにあちこち擦り傷だらけで、血痕が付着している。
足を引きずるように部屋の中へと入っていく。慌てて祐介が肩を貸した。
「すまないな」
「これ……保奈美に?」
「大丈夫。左腕とあばらを何本かやられて、全治二ヶ月ってだけだ」
「保奈美……やりすぎ……」
「藤枝なら、何とか落ち着いて家に帰した。後できちんと説得するから心配するな」
「はぁ……」
 正直心配だが今は任せるしかない。祐介が何を言っても無駄だろう。
「ふー」
 結先生が引いた椅子に深々と座り、恭子先生は一息つく。
「すまない。心配かけて」
「い、いえ……」
 正面の椅子に座った祐介と文緒を交互に見据え、恭子先生はうんうんんと頷いた。そして、
「秋山。とりあえず今日はここに泊まって行きなさい。祐介君も。それでここに住むか決めて。ああ、家賃とは費用はいらないから」
「い、いいんですか」と今度は文緒。



「ええ。これも祐介君へのお礼だから。彼には私の研究にいろいろと付き合ってもらったから」
「はぁ……」
 祐介君が以前かかっていたというウィルスに関してだろうか。文緒は漠然とそう思った。
 そんな元委員長に結先生が、
「秋山さん。ご両親が心配するといけないから連絡しておきましょう。
 今日は私の家に泊まることにして。ここに電話はありませんから外に行きましょうか」
「あ、はい」
 今日は寮の掃除をして実家にも戻るつもりだったのだ。担任だった結先生が一緒なら両親も安心してくれるだろう。
「それじゃ、ね」
 ちょっとの別れでも切ないのか。文緒はそっと祐介を見る。彼は頷き、結先生に目配せした。その結先生は恭子先生に目配せする。

「先生。この部屋もらって本当にいいんですか?」
 二人きりになるとと、早速祐介が訊いてくる。
「オペレーション・サンクチュアリは知ってるな?」
「え、ええ」
 百年後の未来。人類はマルバスと呼ぶウィルスによって絶滅の危機に瀕していた。
それを回避する為に、時空移転装置で百年前の過去に避難し、ウィルスに対抗する手段を見つける。
見つけられなかった場合はそのまま過去で暮らす。それがオペレーション・サンクチュアリだ。
 この高層マンションは移住が決定した場合、蓮美台学園の外でも暮らしていけるよう用意していた住居の一つ。
幸いマルバスに対抗する手段が見付かって、移住計画は取り止めになった。それを祐介と文緒の為に提供したのだ。
「だから気にせず使って」
 恭子先生の説明を受けて、祐介は合点がいった。それでも、
「でも……」と引け目を感じる。
「言ったろ。私の実験に付き合ってくれたお礼」
 包帯をした頭をぺこりと下げる。
「それに……久住と祐介君が分離したのは五年前の時空移転装置の事故が原因で……君をこの時代に連れてきたのは私です。
せめてこのぐらいはさせて」
「そ、そんな……。俺、ここまでしてもらって嬉しいです。だから頭を上げてください」
「そう。よかった」
 頭を上げた恭子先生はニッコリと笑っていた。包帯が痛々しいが。
「先生。俺、この時代に来てよかったと思っています。文緒と……出会えたんですから」
「まあ惚気ちゃってー。はいはい、ごちそうさまー」
 顔を見合わせ、二人はクスッと小さく笑う。
 時計塔の地下の病室にいた頃は、研究者と実験材料の関係だったが、こんなことになるとは思いもしていなかった。
「あとは……藤枝だけか」
「そうですね……」
 久住直樹の幼馴染で恋人の保奈美。それは捨てた久住直樹の過去の象徴のようなもの。
 だが今更戻る事は出来ない。
 妊娠した文緒と生きる事を決めて祐介となったのだから。
「この体が二つあれば……」
 今更ながらにそんな事を考えてしまう。



「ただいまー」
と、実家に電話を入れた文緒と結先生が戻ってくる。両手に買い物袋を下げて。
「いっぱい買ってきちゃった」
 中身は食材がほとんど。それに生活用品なんかも。
「私の奢りですからねー」
 結先生が小さな胸を張る。
「よーし、それじゃ新婦の腕を見せてもらいましょうか」
「うふふ。恭子、お姑さんみたい」
「そりゃー私は祐介君の保護者ですから」
「そ、そうなんですか?」と文緒。
「まあ、その辺の話はあとで」

 その日の夕食はカレーだった。

「あ、あの……これから、もっとお料理勉強するから」
「いやいや。美味しい美味しい」
「んー。新婚さんっていいわねー」
「ですねー」
 恭子と結、二人の先生が笑いながら言うと、祐介と文緒は顔を赤らめてしまう。
 そして夕食の後、
「じゃあ、私たちはこの辺で」
「そうですね。後は二人でゆっくりと」
 包帯を巻いた恭子先生と結が立ち上がると、つい文緒は動揺してしまう。
「えーと……やっぱり、その、そういうことですか?」
「はい」とニッコリ笑う結先生。
「明日また来るわ。秋山の実家にも挨拶しなきゃね」
 それから祐介を見て、
「しっかりね」
「はい」
 何がどうしっかりなのか分からないが、とりあえず祐介は頷く。
 包帯を巻いた恭子先生を小さな結先生が支えて、二人は部屋を出る。
 祐介はその背中に深々と頭を下げた。そして文緒も。

「さて」
 二人きりになった途端、文緒が祐介の肩に頭を乗せる。そして、
「御飯……はもう食べたよね」
 くるっと体を回して前に回り、そのまっま頭を胸に埋めた。
「お風呂にする? それとも……私?」
 祐介はふっと鼻で笑って文緒の頭を抱く。直樹の記憶の中の「委員長」とのギャップについ笑ってしまった。
「どっちも」
 言って額の白いヘアバンドにキスした。

 じゃー、とお湯が湯船に溜まる。
「祐介君。お風呂溜まったよ」
「ああ」
 脱衣場から見るとマンションのお風呂はかなり広い。二人入ってもかなり余裕がありそう。
「お風呂に入るときは服を脱ぎます」
 文緒が祐介を見上げる。そして、シャツのボタンに手を伸ばした。
「じ、自分で脱ぐよ」
「いいから。旦那はじっとしてる」
 そしてシャツのボタンを全部外すと、白い指で胸板をツツとなぞる。
 むず痒さに祐介は震えてしまった。
「じっとしてる」



 言われてお腹に力を入れて耐えた。
 背中に回って上着を脱がすと、広い背中が現れる。意外に逞しい、と思った。
「あっ」と声を出して文緒が背中に触れる。背中の傷に。
「これ……」
「あ、ああ。子供の頃の怪我で」
「久住くんと……同じ」
「へー。すごい偶然」
「そんな偶然あるわけないでしょ」
 前に回った文緒がメッと見上げる。と、急に腰を屈めて、祐介のズボンのベルトをカチャカチャと外した。
「そ、そこまで?」
「当然」
 ベルトを外して、ボタンを外し、
「はい、足上げて」
 すっとズボンを脱がす。中のパンツも一緒に。
「わあ」
 そしてぷらぷらと揺れるちんちんをピンと指で弾いた。
「おおう」
「かわいー」
 これが私の中に入ったんだ、と思うとちょっと不思議。そして可愛い。
「これからよろしくね」
 ぷらぷら揺れるちんこにご挨拶。
「いや、あの、そこに言われても」
「ふふ」
 雄介を脱がすと、すちゃっと眼鏡を外す文緒。
「先に入っててよ」
「……俺も脱がせたい」
「また今度ね」
 裸のままも寒いので、仕方なしに入ることにした。
 お湯を浴びて湯船に肩まで浸かると、芯まであったかい。
「お待たせー」
 ガラッと曇ったドアが開くと、
「ぶらぼー」
 そこに女神がいた。
 一糸まとわぬ裸の少女。俺の妻。
 均整の取れた肢体に、形の良い大きすぎず小さすぎずの胸。
伸びたすらっと脚の付け根、ぴしっと閉じた割れ目を薄い陰毛が覆っている。
 全てを遠慮なく晒し、文緒は顔をうっすらと赤らめていた。
 どうしてだろう。祐介君に見られると、恥ずかしさよりも嬉しい。
「えい」
 その文緒がいきなり湯船に飛び込んでくる。

 ざっぱーん
とお湯が祐介を飲み込んだ。そして目を開けると文緒が笑っている。裸で。
「こいつー」
 祐介がかけたお湯が文緒の髪を濡らす。肩よりちょっと上で切り揃えたさらさらの黒髪。
「このー」と文緒もお湯をかけてくる。

「はは」「きゃー」
 しばらくそのままお湯を掛け合い―
「もう。祐介君ったら」
「文緒からしたんじゃないか」
 お湯がなくなり、仕方無しに湯船から上がる。
「背中洗うわね」
 またお湯を入れ、溜まるまでの間、体を洗うことにした。



「はーい」
 大人しく背中を向ける。
 ふと、幼い日に保奈美と一緒にお風呂に入った直樹の記憶が頭をよぎる。
 いや、今の俺は祐介だ。
 背中を流す心地良い感覚に祐介は身を浸した。
「ん。じゃあ今度はこっちな」
「うん……」
 交代して、文緒が背中を向ける。その白い背中につい見惚れてしまった。
 タオルでごしごし洗うと、布越しでも柔らかい感触がする。
 泡をお湯で流すと、白い肌はますます輝くようだ。
「ありがと……」
 赤い顔で振り向く文緒に背中からきゅっと抱きつく。
「やん。もう」
とは言ったものの、嫌がる様子は無い。肩を抱く祐介の腕に手を置き、目を閉じて頬を寄せた。
「祐介君の腕……」
「ああ」
 その腕が胸に回り、乳房を手で包む。
「あっ……」
 キュン、と文緒の胸が高鳴り、鼓動が激しくなった。
 そしてもう片方の手が文緒の白い手に置かれる。
「この中に……子供がいるんだよな」
「そうだよ……。私と、雄介君の子供」
「名前、何てしようか」
「まだ早いよ」
「そうだな」
 クスクスという笑いがお風呂場にこだまする。

 胸を揉んだ手がキュッとピンクの乳首をつねる。
「あっ」
 そしてお腹に置かれた手がさらに下に伸び、股間をまさぐった。
「……んっ」
 背後からの愛撫に腕の中の文緒が身をよじらせる。
「祐介君……もう」
 背中に熱いモノが押し付けられるのを感じ、文緒は潤んだ瞳で呟いた。
勃起した彼の分身が当たっているのだ。
「昼間……したばかりなのに」
「嫌?」
「ううん」
 背中の祐介に自ら身を預け、文緒は恍惚とした表情になった。
「いいよ。いっぱいしよう」
「どのぐらい?」
「朝まで」
「そうか」
 ちゅっ、と後頭部に口を付け、祐介は股間を握る手に力を籠めた。
「あっ……」と声が漏れる。甘い喘ぎ。
 そして指でグニッと入り口を広げ、そのままなぞり、ぷっくらと固い肉芽を探り当てた。
「あっ……やんっ」
 腕の中で悶える文緒を優しく抱きしめ、ツン肉芽を弾いた。

「アーッ!」
 
 お風呂場に甲高い嬌声が響き、キュッと固まった文緒の緊張がしっかりと伝わる。
そして指を濡らす愛液も。



「文緒」
 背中からお尻を持ち上げ、祐介は座った自分の上に濡れた秘所を持ってきた。その下は天を向く分身。背面座位。
「祐介君……ちょうだい」
 そのまま下に降ろすと、ぐにゅっと秘肉が抵抗なく受け入れ、分身が埋没していく。
「あっ……ああっ……うぅ……」
 文緒の手が下にある祐介の脚を掴む。
「ああっ……あはぁ……はぁ……」
 白い喉を仰け反らせ喘ぐ文緒を祐介は背中から抱きしめた。そして性器はしっかりと結ばれる。
 祐介の男性器は根元まで文緒の女性器に埋まり、熱い秘肉が優しく包んでいた。
文緒のナカはいつも優しく暖かい。
 背中から抱きつき、髪の甘い香りと背中のすべすべ、そしてナカの暖かさを同時に祐介は感じ取った。
 もうそれだけで快楽が全身を支配し、動けなくなってしまう。
「ああぁ……祐介、くんぅ……」
 背中から彼に包まれ、ナカにしっかりと彼を感じる文緒も同様に快楽に身を浸していた。
「はあぁ……はぁ……はあっぅ……」
 口から熱い嬌声が漏れ、お風呂場の壁に反響していく……。
「んぅ……文緒」
「ああっ……祐介君……あんぅ……好き……」
「俺も……好き」
「好き」

 きゅっ、と膣が急激に締め付け、祐介の頭に閃光が走った。
「くっ。もう」
「いっしょに!」

 ドクン
「あう! あうっ! アーッ!」

 膣内に熱い射精の勢いを感じ、そして祐介の腕の中で白い裸身が二度三度と震え、ピンと全身を緊張させる。

「アアーッ!」
 ドク…ドク……
 しっかりと注ぎ、祐介は熱い息を吐いて、モノを引き抜いた。
 文緒の体がガクッと前に倒れ、白いお尻を上げて打ち震える。
 その丸いお尻にちゅっとキスした。何度も。

「はぁ……」
 絶頂の余韻に浸りながら、お尻に浴びせられる熱いキスに、またガクガクと震えてしまう。
指を口に加えて、赤い顔で文緒はお尻を振り続けた。

 それから二人はお互いに体を洗い、湯船に浸かって暖め直し、お風呂を出た。
 バスタオルで体を拭くと、裸のまま、ベッドへと寝転ぶ。
 今日は朝までと決めたから。
「あっ。待って」
 立ち上がって、窓に寄った文緒は開けっ放しのカーテンをさっと閉めた。
 マンションの十階。外から見られる可能性は低いだろうが、やっぱり恥ずかしい。
 それから、二人はベッドの上で抱き合い、舌を絡めてキスする。そして―



 朝。チュンチュンと鳴く雀の声で目が覚める。
 目を開けた文緒は目の前で寝ている男に驚いた。
(あっそうか)
 昨日の事を思い出し、文緒は頬に熱を感じる。

 何度も交わり、そして抱き合って寝た。
 彼を起こさないように起き上がり、脱衣場に向かう。置いたままの服を取りに。。
 体がベトベトする。内股がヒリヒリする。体がだるい。
 その全てが文緒には心地良かった。爽やかな疲労感。
 大好きな彼と疲れ果てるまで愛し合ったのだ。こんな幸せな事は無い。
 このままシャワーでも浴びようと思ったが、とりあえず服を着た。まずは彼を起こそう。
 鏡を見て乱れた髪を直し、眼鏡を掛け、鏡に向かってよしとガッツポーズ。

 今日から新しい生活が始まるんだ。彼との生活が。

「うふふ」と笑いながら、文緒は寝室に戻る。彼はまだ寝ている。
 カーテンの隙間から日が差し込んでいる。朝日だ。
 窓に寄ると文緒はカーテンをさっと開けた。新しい一日、新しい生活の始まりの朝。
 カーテンを開けると、
「なおくーん。おはよー」
 窓の外に保奈美が張り付いていた。

(つづく)