5-359 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2006/11/18(土) 00:58:30 ID:66R57NzF

 夕暮れ色に染まる廊下を寄り添って歩く直樹と保奈美。
 いや、正確に言うと保奈美が直樹の腕にしがみつくような格好のままヨロヨ
ロと頼りなげな足取りで歩を進めてる。
 「なおくんってばひどいよ。優しくしてって言ったのに。」
 そう直樹を非難する声すら弱々しい。普段から優雅に、そして控えめながら
も自信に満ち聡明な振る舞いをしている学年屈指の優等生らしからぬ様子だが
、幸いなことに下校間近の時間帯なので誰かに見とがめられる心配は無さそう
だった。
 「ごめんごめん。保奈美があんまり可愛い声を出すから……」
 「そ、そんなのを『可愛い』って言われても全然嬉しくないよ。それにああ
いうコトしてる時のなおくん、強引で少し怖い。」
 不自然なまでの内股で一歩一歩を確かめるように進む保奈美の顔は心なしか
青ざめている。直樹がいないと今にも倒れてしまいそうだ。
 「それだけ保奈美が欲しいって思ってるんだ。好きな相手としてるって思う
からこそ……なんていうか、こう……」
 「……なおくん、何だか言い訳っぽい……って、きゃ! ま、待って!!」
 直樹が歩く速度を僅かに上げただけで保奈美は崩れそうになってしまう。
 「少なくてもいまは、優しいだろ?」
 「……なおくん、ずるぃ……」
 


 「おい、お前ら…!」背後から不意に掛けられた声でビクリ、と弾かれたよ
うに竦み上がる保奈美「……久住と……藤枝、か?」
 「あ、フカ………の先生。」
 腕に抱きついたまま、直樹の影に隠れようとする保奈美を庇うように動きつ
つ直樹が深田教諭に返事をする。彼の視界の中で、文系の担当とは思えないほ
どに恰幅の良いスーツ姿が大股で近づいてくる。
 「お前らに仲良くするなと野暮は言わないが、せめて学校ではもう少し学生
らしい態度………ん? 藤枝は、何処か具合でも悪いのか?」
 「ええ」と、これまた直樹「ちょっと調子が悪いみたいなんで、家まで送っ
ていこうと思っていた所なんです。なぁ保奈美?」
 「う、ぅん………」
 「そうか。その……勝手に決めつけたりして悪かった。藤枝さえ良ければ、
車で送っていってやろうか?」
 彼自身は寮からの徒歩通勤の筈だ。ということは他の教師の車を借りようと
言うことか、或いは寮に愛車があるのか。
 「いえ、俺が一緒にいますし。それに先生には悪いんですけど、調子が良く
ない時に慣れない車に乗ったら……えっと、臭いとかで逆に気分が悪くなった
りするかも知れないので……」
 「………そうか………そうだな………」
 「じゃあ、急ぎますので。」
 「し、しつれいします……」
 「ああ。久住、お前は男なんだから、藤枝のことを頼むぞ?」



 再度、挨拶をしてから深野教諭に背を向け寄り添うように歩き始める二人。
 「………ああ……藤枝?」
 「ひぅっ!?」
 ブルブルッ、と小さく痙攣する保奈美の体。
 「はい?」「は……い……」
 「途中でどうしようもなくたったら無理をしないで、久住に言ってすぐに学
校に連絡するように。野々原先生は御不在のようだが、とりあえず俺は職員室
にいるようにしておくから何時でも良いぞ。」
 「あ、ありがとうございま……す……」
 「失礼します。」
 


 「……な、なお……くん……」
 「ん?」
 それからは誰に止められることもなく校門を出て数分後。保奈美の顔には無
数の脂汗が浮き上がり、目尻には涙も浮かんでいる。
 「その……中から、なおくんのが……」
 「もしかして、垂れてきた?」
 「う、うぅ……」きゅっと内股を閉じ、とうとう路上で立ち止まってしまっ
た保奈美「……なおくんが、駄目って言ったのに沢山するから……!」



 「やっぱり、フカセンに頼んで車で……」
 「だ、だめ……!」絶え絶えの息の合間に継ぐ言葉「……車の中で、におい、
気付かれたら、私……も、なおくんも……」
 とはいえ、こんな所で揃って立ち往生していては不審極まりない。それこそ
直樹達が何もしなくても誰かが学校に連絡してしまう可能性もある。
 「いっそのことコンビニで新しいのを……っていうのも駄目だしなぁ……」
 ここから最寄りのコンビニエンスまで行けるなら、そのまま渋垣邸まで行け
るだろうし、学生服姿の男女が学校帰りに……というのは学校で何をしていたか
白状するも同然の行為である。
 「な、なおく……わたし……もぅ……」
 「ああもう! 面倒くせぇ!!」
 言うが早いか直樹、保奈美の膝と脇の内側に素早く腕を差し込んで問答無用で
抱き上げる。所謂「お姫様だっこ」である。
 「きゃっ!?」
 「良いからお前はもう動くな。このまま俺の家まで連れてってやるから!」
 「で、でも……」
 「オンブだと脚が開いちまうから駄目だろ? どうせ気分が悪いって事にな
ってるんだから恥ずかしいとか思わなくても大丈夫だ。どうしてもっていうな
ら俺に抱きついて顔隠しとけ!」
 「うん」言われたとおり、首に抱きついて顔を埋める保奈美「なおくん?」
 「ん?」
 「なおくんは、やっぱり優しいね?」
 「………………………………ばーか、今更言ってるなっての!」
 「え、えへへ♪」
 夕焼けの斜めの日差しが、二人を温かく包んでいた。