0-178 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 05/02/25 22:00:30 ID:aHWu5dLL

(BGM:夕暮れの向こう)
TV番組を見終えて英理さんは夕食の準備にとりかかった。
エプロンを着けて機嫌良さそうにキッチンをパタパタと舞う。
ずっとその姿を見続けていたい気持ちだったけどTVに目を移す。
背後が気になって番組の内容など頭に入らない。
(くぁーーっ、考えれば考える程頭の中が一色に……)

「直樹くーん、ご飯できたわよー」
「ハッ?!はーい」
我に返って振り向くと既にテーブルの上に夕食の準備がされていた。
お互い定位置に座って箸を持って手を合わせて食べ始める。
(いかん、変に意識してしまって会話が出ない)
二人とも無言で夕食を食べ続ける。
相当気が焦っていたのか、喋ることもなかったせいか、いつもよりも早く平らげてしまった。
「直樹君、おかわりは?」
「あ、今日はいいデス。そ、そうだ。風呂洗ってついでに入っちゃいますね」
気が動転してそそくさとリビングから抜け出した。

(BGM:THE WAILING WALL)
「はぁー、何やってんだ俺は……」
湯船に浸かりながら深い溜め息とともに一言呟く。
せっかくのチャンスをこうして潰してしまっているのだから嘆きたくもなる。
「一緒に入る……ってのは流石に無理だろうけど、こんなに早く入ることもなかったのに」
今はまだ午後八時台。普段ならこれから渋垣夫妻が帰ってくる時間。
でも今日は英理さんは家に居るのに……この思い、どこにぶつければ──

「お風呂あがったんで、今日は英理さんも早めに入ったらどうです?」
「そうねぇ、それじゃ私もいただいちゃおうかしら」
風呂場を出て一言かけてあげると、少し嬉しそうに英理さんがソファから腰をあげる。
その時、前に垂れた長い髪をかきあげたのを見て、またドキッとしてしまう。
「それじゃあね、直樹君」
バスルームへ向かう英理さんの後姿を目で追う……。