0-176 名前: 其の一のBGMはSTRAIGHT AT ME で [sage] 投稿日: 05/02/24 15:51:25 ID:hcv1TeAZ

(BGM:Shining days)
「ふぅ……やっぱ怒らせちまったな」
珍しくぷりぷりと湯気を立てて帰っていく保奈美をベランダ越しに見送る。
「……今日はうるさい茉理もいない。今しかないんだ、許せ」
心の中で保奈美に謝って自分の部屋を出て階段を降りていく。

リビングの扉の前に立つと中からTVの音が聞こえてくる。
ゆっくりとノブを回して開けて静かに侵入する。
「あら、直樹君。どうかした?」
「え、えーと、コーヒーでも淹れようかなと」
体から妙なオーラでも出していたのか、すぐに気付かれてとっさに出任せを言う。

それでも言ったものはしょうがないのでコーヒーを自分と英理さんの分を淹れた。
「はい、どうぞ」
「あ、ごめんね。それじゃ遠慮なくいただくわ。……んー、美味しい」
「そうですか、それはよかった。まぁ恭子先生に鍛えられた甲斐があったな」
「あらあら。直樹君は先生とも仲が良いのね」
「そんなことないですよ……たまたまっていうか半分無理矢理でしたから」
「くすっ、そんな風に言ってはいけませんよ」

今までこんなに英理さんと会話したことがあっただろうか。
ここ五年間の記憶を探してもそんな時間はほとんどない。
当然渋垣夫妻は以前から共働きだったので、家にもあまり居ない。
何だかこの時間がとても新鮮なものに思えてきた。

「本当に美味しいわ、このコーヒー。あの人が淹れてくれるのよりも」
「えっ?」
思わず突拍子も無い声を挙げてしまった。次の瞬間にはヒゲ面が浮かぶ。
「そうか源三さ、オヤジよりも……そう言えば今日は何時帰ってくるんです?」
「今日は接待があるって言ってたからかなり遅いんじゃないかしら。お酒も飲んでくるでしょうし」
「ホントお酒好きですよね、まったく。ハハハッ」
内心では二人きりの時間が確定したことに対して高笑いしている。