8_5-791 名前:はにうられ・第5回 投稿日:2012/09/10(月) 01:09:29.22 ID:fvh9ChJ9

 「久住ってさ〜ぁ?」
 スケジュールの確認を済ませて指導に向かおうとした直樹を、ファッション誌を流し読みしてい
た菅原が呼び止めた。
 「なんだよ?」
 「橘のこと、ずいぶん気に入ってるみたいじゃん? あ〜ゆ〜マッチ棒みたいなガリガリ女が好
みだったんだ?」
 「……そんなんじゃないよ」
 「せんぱい〜、とか甘ったるい声で言われちゃてさ。私は清純です〜って顔した年下を弄くり回
すのが好きって、まんまロリコンじゃん? キモ〜〜〜〜!!」
 「だから、違うって言ってるだろ?」
 「アハハハッ、なに必死になってるんですか〜? ひょっとして橘の奴に『おに〜ちゃん』とか
呼ばせたりして? いや〜、てっきり久住は部長みたいなタイプが好みかと思ってたんだけど、マ
ジ真性だったんだ〜?」
 受ける受ける、マジ受ける〜! と足をばたつかせて笑い転げる菅原の姿に、普段以上の怒りが
こみ上げてくる。安っぽい挑発だとわかっているのに止められない。
 「菅原、お前……!!」
 「二人とも、何やってるの?」
 そこに眼鏡をかけた長身の女生徒が入ってきて、冷たい瞳で二人を眺める。
 「……飯田」
 飯田ひかり。主な担当は経理だが合気道の有段者らしく『勧誘』の際にも活躍する二年生。学年
的には直樹達と同じだが、留年組なので実際は年上で部活歴も一番長く全員が一目をおいているベ
テランである。
 「いや別に、なぁ?」
 「……うん」
 「そう」と興味なさそうに短く区切る「今日は奉仕日。久住も菅原も、そろそろ準備した方が良
いと思う」
 そのまま、何事もなかったかのように無表情で通り過ぎ奥へと消えてしまう飯田。残された直樹
と菅原も、なんだか毒気を抜かれてしまい無言のまま持ち場へと向かう。



 実際の『奉仕活動』には主に『オーラル』と『インサート』の二種類がある。
 その区別は簡単で、部員の体の全てを使用できるのが『インサート』。基本的に手と口喉のみを
使用しての奉仕が『オーラル』で、どちらも制限時間内であれば何回でも射精して良いことになっ
ている。

 だが、ちひろが二回目の『奉仕活動』で希望したのは『オーラル』でも『インサート』でもなく
『特別奉仕』だった。

 「だって、その方がお金がたくさん貰えるって教えてくれましたよね、先輩が?」
 「そりゃ……言ったけど……」
 「それに、お金をいっぱい稼いだら待遇も良くなるし、解放される可能性も高くなるってお話も
先輩から聞きました。それなら……」
 同じ辱めを受けるなら、少しでも……と言外の気持ちを目で訴えるちひろ。
 客が払う代金。その金額交渉は『奉仕活動』の後で行われるのが一般的だ。だから、ちひろのよう
に処女を失ったばかりで、技巧らしい技巧も持たない部員が普通に奉仕活動を行ったところで客が応
じてくれる支払額は奉仕契約時の数分の一か、それ以下になってしまう。
 しかし『特別奉仕』なら話は別だ。技巧レベルや体格、性格、時には性癖や心身的な障害まで指定
される事前オーダー制の『特別奉仕』であれば、事後交渉による減額はあり得なし、未熟で未成熟な
部員を要求されている今回なら、むしろ直樹たちにとっては渡りに船と言っていい。
 「でも『特別奉仕』は……なんていうか、普通じゃないし『インサート』よりも辛いかもしれない
し、橘さんの体は……」
 「そ、それは……」瞬間、ちひろの顔が朱に染まる「……昨日、先輩が確かめてくれたじゃないで
すか。えと、特に傷も付いてないよって、奥の方まで指で……」
 それを指摘されると辛い直樹。
 「わかった」と答えるしかない。それでなくても菅原はちひろを充てたがっていたし、ちひろを
『特別奉仕』に回せば他の部員を通常の『奉仕活動』に振り分け、より多くの収入が得られるのだか
ら、本来は断る理由などない「それじゃ、準備をするから来てくれるかな?」
 「準備、ですか?」
 「他の場所に行くからね。あと、これを付けてくれるかな」



 隠しを付けされ、ちひろが手を引いて連れて来られたのは。
 「応接……室?」
 ほんの数分前まで二人は部室棟の地下にいたはずなのに。
 「詳しくは言えないけど、いくつかの通路があるんだ。それと『特別奉仕』は校外の支援者の相手
が殆どだから、この奥の特別室を使うことになってるんだよ」
 「こ、こんな大がかりな……」
 校内で、教職員が関わっている以上は学園側も関わっているだろうとは推測していたちひろだ
が、ここまで本腰を入れた仕組みだとは思ってもいなかった。信じられない、という顔で室内をキ
ョロキョロと見回してしまう。
 「それと、これに着替えてくれる?」
 「え?」直樹が差し出した、それは「私の……制服ですか?」
 どこから見ても、蓮美台学園の高等部の制服だ。
 「いや、一年用だし橘さんのサイズに近いからそう見えるだけで、真っ新だよ。同じ学年に片桐
翔子って子がいるのは知ってる?」
 「…………翔子ちゃんは、同じクラスで付属の頃からのお友達ですけど……」
 「今日は、その片桐さんになって貰うから」
 「……えっと?」
 正直、訳が分からない。
 「って言っても、別に演技とかはしなくても良いから。多分だけど、名前を呼ばれたら返事をする
くらいで大丈夫だと思う」
 「わ、わかりました」
 ちひろを遮る直樹の口調が事務的になる。きっと、これ以上は何を尋ねても答えてはもらえないの
だと直感したちひろは、とりあえず従おうと決めた。どうせ、もうに逃げ道はなんだし、と。
 「あと、さっきも説明したけど『特別奉仕』は学園にとっても重要な人を相手にする。だから普段
の『奉仕活動』と違って、途中での中止は殆ど有り得ないと思って欲しい。つまり俺なんかじゃ介入
出来ないんだ。だから橘さん自身の為にも、決して口答えとか拒絶するような態度とかで怒らせるこ
とがないように気をつけるんだ。冗談でも何でもなく、腕を折られたりとか体に跡が残るような怪我
をしたりしたこともある」
 「!!」
 想像以上の厳しい言葉に、ちひろの顔が強ばる。
 「でも、言うことを聞いていれば怪我をする程に乱暴な目には遭わないと思うし、馬場先生の何十
倍の料金を払ってくれるから、橘さんの立場も間違いなく良くなる」
 だから頑張ってね、と髪を撫でてくれた直樹に渡された制服に着替え、ウイッグを付けてクラスメ
イトの少女となったちひろは、隣室への扉を開いた。