8_5-724 名前:流れSS書き ◆63./UvvAX. 投稿日:2012/08/17(金) 05:32:41.73 ID:mSIS9J7g

 「し、司祭様!」
 日曜の説法も無事に終了。礼拝堂に集まった人々を見送り、一通りの挨拶も笑顔でこな
し、さて礼拝堂の掃除でも始めようかと気合いを入れ直していたエステル背後から、何処
に隠れていたのか誰かの声が。
 「はい?」
 少々不意を突かれたが、この程度のことで動揺を露わにしていては司祭としての沽券に
関わる。内心の驚きを微塵も出さぬよう顔面の筋肉を酷使しつつ声の方角に体ごと振り返
ってみると、柱の陰から恐る恐る顔を出した少女の姿が見えた。
 「あ、あの……お疲れなのにすみません。私、どうしても司祭様に二人っきりで聞いて
頂きたい事があって、その……」
 年の頃ならエステルと同じくらいか。何度か見かけたことのあるので敬虔な信者なのだ
ろう。その縋るような目と、恥じらう姿にエステルの職業スイッチがオンになる。
 「告解……ですか? でしたら……」
 「い、いえ、あの……」
 もじもじもじもじ、と頬を染め手足を体に擦り合わせ視線を泳がせながら少女が柱の陰
から出てくる。
 「???」
 「わ、私、こんな事を誰に相談したら良いのかわからなくて。それで、あの、司祭様な
ら分かって頂けるかなって思って……」
 「はぁ……」
 しかも全く要領を得ない。くねくねと面妖な動きで体を揺らす少女にかける言葉すら見
つからない。とはいえ、この様子から察するに思春期特有の可愛らしい相談だろうから一
通り話を聞いた後で励ましてやれば良いだろう。
 「あ、あの……」
 「はい」
 ようやく話す決心が付いたらしい少女に穏やかな笑みを向けるエステル。
 「お、おおおお同じ女の子として相談に乗って頂いてもいいですか!?」
 「ええ、良いですよ」



 「私、地球の方からきゅ、求愛されて……」
 「それで悩んでいる、ということですか?」
 告解ではないが、他の誰にも聞かれたくない話、ということで場所をエステルの部屋に
移してお茶を出すと、ようやく少女は(恐ろしく恐縮しつつ)話を始めた。なるほど、こ
れは確かに内密に、しかもエステルにしか相談できないだろう。
 「いえ、あの…彼、真面目な人だしすごく真剣だったから、お友達としてのお付き合いか
らでもいいならって、お返事しました。それが半年ほど前のことなんですけど……」
 「それでは、その方とのお付き合いに問題が?」
 「あ、そんなこともないです。私、月居住区で生まれて、ほとんど出たことがないので
地球の人との接し方とかが全然分からないので不安だったのですけど……彼はいつも最初
に私の話を聞いてくれて、それから地球の話を教えてくれて、無理をしなくて良いから少
しづつ慣れてゆけばいいよって色々と私に合わせてくれてるから……でも……」
 「では周囲の反対とか……?」
 「ううん、それも大丈夫です。司祭様が地球の方と婚約したって聞いて、私も思いき
って両親に彼を紹介したんです。そうしたら最初は心配していたお父さんもお母さんも、
嫌な顔一つしないで何度も月居住区に足を運んでくれる彼が真剣なんだなって理解して
くれましたし。そうそう、司祭様と婚約されている方を何度かお見かけしましたけど、
素敵な方ですよね?」
 「あ、ありがとうございす」自分の恋人を褒められて正直嬉しいが、それを馬鹿正直に
顔に出すのが何故か恥ずかしくて照れ顔になってしまうエステル「でも、あなたのお話を
聞いている限りですと……お二人の交際には特に問題もないように思えますけど?」
 「は、はい。えっとその……」
 「その?」
 「だから……つまり……何というか……」
 「…………………………」
 「あうぅ……」



もじもじもじもじ、と恥じらうばかりで要領を得ない少女の様子に何だか苛立ちをにも
似た衝動を覚え始めたエステルだが、ここは我慢である。
 「こう言ってはなんなんですが、余りに言葉にしづらいお話でしたら日を改めてでも構
いませんが?」
 「あ…………いえっ!」
 エステルの声色の中の僅かな不機嫌さを敏感に感じ取ったのか、少女が慌ててかぶりを
振る。やはり恥じらいに頬を染め、視線を泳がせながらもコクリと息を飲み込んで恐る恐
る口を開く。
 「じ、実は私、二月ほど前に、その……あの……彼に全てを許してしまって……」
 「…………はい?」
 「で、ですからっ! 彼と契りを……」
 「は………!」
 早っ! と思わず口走りそうになってしまったが寸前で思いとどまる。自分たちの時は
、もっと早かったような気が……
 「うぅっ、すみませんすみません!」
 「あ、いえ……」
 「でもでも、後悔はしていないんです! もちろん、お父さんやお母さんに黙って愛さ
れてることには罪悪感も感じますけど、彼の想いを全身で感じるのはすごく幸せですし、
ちゃんと彼と将来のことも相談してますし!」
 「な、なるほど……」
 一番の関所を一気に駆け抜けた反動か、急に饒舌になってきた少女に気圧され気味にな
ってしまうエスエル。
 「それにセ……するより前よりも彼のことが理解できるようになった気がします! と
いうか……してる時の彼がすごく可愛くって。ほら、私が側にいるだけで大きくなってし
まってるのを必死に隠そうとしてる様子とか、誘いたいのに上手く言いさせなくってオロ
オロしてるとことか、あと私を傷つけないように気を遣いながらも我慢できなくなって一
生懸命動いてるときの顔とか達してしまった時の可愛らしい顔をみるだけで、お腹の奥が
キュンキュンしてしまって、私もう……」
 「こ、こほん!」
 先ほどよりも苛立ちの露わになったエステルの咳払いで、少女のマシンガントークがピ
タリと止まる。



 「あ……ああああああああ、すみませんすみません! 同じ地球の方とお付き合いして
る女の子だと思って、司祭様になんてはしたないことを……」
 「い、いえ……」少女の明け透けな物言いにあてられてしまったのか、下腹部に感じる
微かな熱に自己嫌悪を感じつつもエステルは努めて平常を演じる「……で、ですがお話を
聞いている限りですと……その、体の関係も含めて特に悩んでいるような部分は見当たら
ないように思いますけど?」
 聞いた限りでは二人の仲は良好だ。肉体関係になった途端に男の態度が冷たくなってし
まった、という事もなさそうだし自分に何を解決して欲しいのかが全く見えない。それと
も秘めた関係を打ち明け許して欲しかっただけなのか?
 (それはそれで、まぁ私の役目ですけど)
 それが告解というものだ。
 
 ……コレは少し違うような気がしないでもないが。

 「あ、はい」と少女は再び恥じらいモードに突入「あの、私、いままで男の人とお付き
合いした経験がなかったので自信があるわけじゃないんですけど、司祭様の仰ってる通り
割と上手く出来てるんじゃないかなぁって思います。けど……」
 「……けど?」
 なんだか先刻から話が全く前に進んでいないような気がしてならないのは自分だけなの
だろうかとエステルは思ってしまう。というか惚気話を聞かされてるだけ?
 「その、さっきも言いましたけど彼とのお付き合い……というか、えと、深い関係にな
った事は間違っていないと思ってます。けど……」
 「…………けど?」
 「……彼が、あの、要するに、情熱的というか……逞しいっていうか……」
 「はい?」
 「ししし、司祭様も地球の男性とお付き合いされているから良くご存じだと思うのです
けど、あの、えっと……すごいですよ……ね?」
 「あ、あのー……」
 嫌な予感がして話を遮ろうとするエステルだが。



 「やや、やっぱり環境の違いなんでしょうか? 私がイメージしてた愛し合い方よりも
ずっとずぅっとダイナミックというか力強くて、もう始まっちゃったら最後、ひたすら彼
に導かれるまま頭の中が真っ白になるまで愛されて。あ、別にそれが嫌なわけじゃないん
ですというか彼のモノになっちゃったんだなぁって感じもすごく幸せで最初のうちは彼に
全部委ねちゃうだけだったんですけど、さすがにそれだと嫌われちゃうかもって思って私
の方からも彼のをお口でしてあげたりして……あ、司祭様もフェラチオって知ってますよ
ね?」
 「あの、ですから……」
 「でですね? 慣れてきたら喉の奥まで入れても大丈夫になったから根元まで全部飲み
込んであげたんですよ。そしたら彼が本当に可愛い声出しちゃって、もぅその日はお口に
入れたまま三回も続けて飲んであげたんですよ、すごいでしょ?」
 「ちょ……あなた……」
 「そしたら彼ったら、次のデートの時に『今度は俺の番だぞ』って妙に張り切っちゃっ
て、私のことを四つん這いにしてフタアナゼメでおしっこ漏らしちゃうまで責められてベッド
が汚れちゃって後始末が大変だったんです。ほんと、困っちゃいますよね?」
 「…………」
 「でもでも、終わった後に私をお姫様ダッコでバスルームまで運んでくれて何回も『大
丈夫?』って聞きながら体中を綺麗に洗ってくれたり、そのまま朝まで抱きしめてくれて、
耳元で『可愛かったよ』とか優しい言葉をかけてくれるんです。それに彼が時間をかけて
ゆっくりほぐしてくれたからアナルも思ったほど痛くないかなっていうか、それから何回
もアナルディルドで慣らしてると裏側からシキュウをゴリゴリされるのが気持ちよくなって
きちゃって、すごく恥ずかしかったんですけど彼に『こっちの初めても貰ってくれる?』
って勇希を出してお願いしたら彼も喜んでくれてハイメンザイで入れられたら私ったら
初めてなのにクリトリスイジラレナガライッちゃって……」
 「…………(ごくり)」
 「その時に気づいたんですけど、私って少し乱暴なくらいに求められた方が興奮しちゃ
うみたいで、彼に打ち明けたら『じゃあ、これも試してみる?』って、バイブデフタアナ
ゼメされながらイラマチオでコウナイシャセイで息ができなくなりそうだったんですけど
彼に心まで征服された感じでゾクゾクきちゃって、それからコウソクトカメクアクシトカ
最近だとクビワヲシナガラアオカントカチカンプレイトカ、あとカレノオウチデハダカエ
プロンデイチニチスゴシタリフェラヲシナガラオナニーシタリシタギヲツケナイデデート
シテソノママエイガカンノトイレデシチャッテ、ナカニダシタセイエキモラシタラオシオ
キダゾッテカレガ…………シサイサマ? 司祭様?」
 「………………………は、はひっ!?」



 「もしかして……引いてます……?」
 「そ、そんなことはありませんよ、ええ……」
 言えない。聞き入った挙げ句に途中から理解できなくなって頭の中が真っ白になってい
たなんて口が裂けても言えない司祭様。
 「それで、相談したいことというのは……つまり男性が過激なエ……行為を求めてくる
ので困っていると?」
 こほん、と軽く咳払いをしてから軌道修正するエステル。少し気持ちを落ち着けようと
持ち上げたカップの中の紅茶は、すっかり冷めていた。
 「……いえ、あの、周囲には気づかれないようにって彼が守ってくれているし、プレイ
自体もとても気持ち良いので全然かまわなというか、もっと色々教えて欲しいなって思う
んですけど……」
 「ごほっ! ごほごほ!」
 「司祭様!?」
 「ず……ずごじ気管にばいっだだげので……づづけでづだざい」
 でもこの子、同棲しているわけでも無いのに二ヶ月の間に何回したんだろうかと呆れを
通り越して感心してしまうエステル。それとも自分と達哉が少ないだけで、地球では彼女
くらいのペースが普通なのか?
 「あ、はい。ですから彼の求めに応えてあげることは全然嫌じゃなんです。だって私も
女の子ですし、好きな人に激しく求められるのって、やっぱり嬉しいですよね?」
 「それは、まぁ……」
 確かに他の全てを差し置いて恋人を性的に独占できているという実感は、ある意味では
女冥利に尽きるとも言えるが。
 「よかった!」と少女はエステルの曖昧な肯定にも明るい笑顔を浮かべる「司祭様たち
みたいに清いお付き合いをされている方には軽蔑されてしまうかもって、少し不安だった
んですけど……安心しました!」
 「い、いえ……」
 そんな笑顔が少々後ろめたくて微妙に顔を背けてしまうエステル。



 「実は私、あんまり気持ち良いからって彼とのプレイに溺れすぎてるんじゃ無いかって
心配していたんですけど、そんなこと全然無いって言って頂いてホッとしました。帰った
ら早速(彼)に電話して、新しいオモチャの使い方聞いてみよっと!」

 「…………………………………え゛?」

 「司祭様司祭様、今度のは電動らしいんですよ! あと彼が今度、可愛い服も色々用意
しておくよって言ってくれてますし、もぅ楽しみで楽しみで!!」
 「いえ、そうではな……」
 「あ、もうこんな時間! お疲れなのに長々と聞いて頂いて申し訳ありません。今日は
これで失礼しますけど、今度、お礼も兼ねて彼を礼拝に連れて来て司祭様にご挨拶して貰
おうって思いますっ!」
 「ですから、少し私の話……」
 「それでは司祭様、失礼しますっ!!」
 ぺこり、と元気よく(かつ深々と)お辞儀をした少女は、満足そうな笑みを称えたまま
軽快な足取りで走り去ってしまった。
 「って……………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 と数秒遅れて思考が追いつき、椅子を倒さんがばかりの勢いで立ち上がったエステルだ
が時既に遅し。まだ名前すら聞いていない月人の少女の姿は影も形もない。
 「あ……あぁぁぁぁぁぁぁ……!」
 思わず頭を抱えて珍妙な悲鳴をてしまっても後の祭り。少女は間違いなく勘違い(という
よりも自己完結)して帰ってしまった。過ぎてしまった過去の内容はともかく、電動のオモ
チャとやらが具体的にどういうモノなだろうと行為に使用する物であれば教義的にはとても
オススメすべきものではないのだが……
 「ふ、不覚でした」
 としか言いようがない。唯一の救いが後日、彼氏とやらも同伴で礼拝に訪れてくれるとい
う最後の言葉で、そこで自重するよう言い聞かせるしかない。
 どう考えても手遅れにしかならないだろうが。
 「それにしても一体何しに来たのでしょうか、あの子は……」
 やっぱり溜に溜めた惚気話を披露しに来ただけなのだろうか、とエステルは盛大に溜息を
ついた。