8_5-128 名前: 流れSS書き ◆63./UvvAX. [sage] 投稿日: 2009/06/26(金) 05:55:06 ID:WkMEYS4+

 「えっと……ちょっと散らかってると思うけど……」
 久しぶりに全員が揃った夕食を終え、入浴も済ませ寝間着になった後は寝るだけ。そん
な時間に自室に人を招くなんて、本当に久しぶりなのだろう。しどろもどろになっている
菜月の部屋への入室を許されたフィーナの目を最初に引きつけたのは、朝霧家に面した大
きな窓だった。
 「ほんとうに、達哉の部屋の真向かいなのね。」
 「え? あ〜……うん、ソウダネ−?」
 と、今度は真っ赤になる菜月。いきなり『今晩、菜月の部屋にお邪魔しても構わない
かしら?』と言い出したフィーナの真意が掴みきれずに戸惑っているのだろう。それは無
理もないことだとフィーナ自身も思う。公務で数ヶ月ぶりに地球への一時帰国を果たした
達哉達。その元・恋のライバルから暗に『一晩、二人きりになりたい』と言われて構えな
い方がどうかしている。
 「ご、ごめんね? 一応お掃除はしたんだけど、その、しばらく使ってなかったって言
うか……えと……我ながら女の子らしくない部屋だよね〜? あははは〜。」
 頭を掻きつつ、照れと緊張の入り交じった珍妙な顔で笑う菜月を見ていると、失礼だな
と思いつつも込み上げてくる可笑しさを堪えることが出来ない。それと同時に素朴で真っ
直ぐな彼女の性格への愛しさに似た感慨も。
 「そんなに卑下されたら、私の方が困ってしまうわ。だって菜月のお部屋がとても羨ま
しいんですもの?」
 「……へ?」
 「確かに物は多くないかも知れないけど、ちゃんと整理されていて部屋のスペースをと
ても巧く生かしていると思う。それに、あちらこちらの小物やカーテンで自分らしさもき
ちんと出して、心も体も休めることが出来る空間作りが出来ていると思うもの。普通の女
の子の部屋のお手本みたいだなって思えて、リラックスできそう。」
 「あ、あははは〜……」菜月、褒め殺し連打で更にタジタジ「……って、気が利かなく
ってごめん! 椅子……は一つしかないからベッドに座ってて。いま、お茶を……」
 「待って菜月、お茶はお店の方で沢山頂いたから平気よ? それよりも、菜月にも座っ
て欲しいのだけれど?」
 「あ……」
 「ね?」
 わざとベッドの端に腰を下ろし、空いたスペースを掌で撫でて隣を促す。そんなフィー
ナとの距離感が計りきれないのか暫く逡巡していた菜月だったが、やがて観念したかのよ
うに身を縮ませながらも幼馴染みの婚約者の横におずおずと腰を下ろした。



 こちこちこち……と久しぶりに実家での勤労を任された小さな目覚まし時計が職務に勤
しむ音以外は何も聞こえない夜も更けた少女の私室。微妙に重苦しい空気に細波を立てる
ように口を開いたのは、フィーナの方だった。
 「菜月は……達哉の事が好きなのよね?」
 「な、ななっ……」菜月、久々の瞬間沸騰「ななななななななななっ!?」
 「ほら、顔に書いてある」と何故か嬉しそうに目を細めるフィーナ「それは、やはり子
供の頃からかしら? ずっと達哉だけを見て、これからも達哉と一緒にと思いながら頑張
ってきたのでしょう? その……私が来るまでは?」
 「あ、あぅあぅあぅ〜……」
 すっかり茹だってしまった菜月はグロッキー寸前。並んで座るフィーナの顔を見ること
も出来ずに湯気を上げながら狼狽えるばかり。
 「菜月?」そんな菜月の頭に手を載せ、小さな子供をあやすように優しく髪を撫でなが
ら吐息と共に囁くフィーナ「菜月、こっちを向いて。今日はね、菜月に渡してあげたいも
のがあるの」
 「渡したい……もの?」
 ちらり、と頬を染めたまま瞳を動かして応える菜月。
 「ええ。どうしても、菜月にだけ、渡しておきたい物があるの。この機会を逃したら、
今度はいつ地球に来られるかわからないから。だから、こっちを向いて、ね?」
 一言一言を区切り、噛んで含めるように丁寧に言葉を継ぐフィーナ。その全てを包み込
む微笑みと、手の平の温かさとに励まされ、ちょっとだけ気を取り直した菜月は月からや
ってきたお姫様と向き合おうと顔を上げる。
 「う、うん。それで私に…………………んぐっ!?」
 が、次の瞬間には再びパニックに陥ってしまった。
 「はむっ……ちゅ、んちゅっ……ちゅ……」
 「んぐっ、ひぐっ、ん〜〜〜〜〜〜〜んっ!?」
 ドアップになったフィーナの顔。夜気の代わりに鼻孔から流れこんでくる甘く生暖かい
香り。そして後頭部を引き寄せる手と二の腕をに添えられた手と密着したバストと口を塞
ぐ柔らかくて血の通った物の正体を総合すると。
 (わ、私キスしてる……っていうかされてる? フィーナに!?)
 実に単純、かつ極めて受け入れがたい純然たる事実がはじき出されるわけだが、それを
脳が把握できたとしても、理性までがハイそうですかと素直に納得する筈もない。という
か何がどう転ぶとこうなるのかが全く理解できない。
 そして、それが最も自然な反応でもある。
 


 「んふぅ〜〜〜〜っ!?」
 言うまでもないが初めてだ、初体験だ。いわゆるファーストキスだ。冗談半分でさえ他
人に唇を許したことなどない。先程以上に動転して硬直した菜月を解きほぐすように、婚
約者との日課で慣れたフィーナは持ち前の技法で同い年の少女の唇を自らの口と舌とで愛
撫し快感を与えてゆく。
 (な、なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんで〜〜〜っ!?)
 と同じ所をグルグル回っている思考回路。混乱の余り抵抗とか拒絶とか普通なら考える
までもなく起こせるであろう自衛手段すら思いつかない。ほんの数ヶ月前までは隣人どこ
ろか親戚か何かに近い関係だった相手を排除してしまうことに対する戸惑いがあったのか
も知れないが、その判断の遅れで何も出来ないまま、菜月はいつの間にか自分のベッドの
上へと押し倒され組み敷かれていた。
 「くすっ」
 マウントポジションを取って満足したのか、やっと口を離したフィーナはゾッとするよ
うな妖艶な笑みを浮かべなつつ、自身の唾液で濡れた唇をペロリと舌で拭う。
 「あ、あ……ああああ…………」
 一方、下敷きになった菜月はと言うとフィーナの唾でテラテラと濡れ光る唇をワナワナ
と震わせるだけで声も出ない。まぁ無理もないが。
 「……びっくりした?」
 「あ、あ、あああああああああ………き、きゃ…………むぐぐっ!?」
 今度は柔らかい手で口を塞がれてしまった。
 「大きな声を出しては駄目。人が来たら菜月も困るでしょう?」
 「ふぐっ! む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 共同責任みたいに言うなぁっ! と実に尤もな抗議しても武術の心得があるフィーナを
引きはがすことは出来ず指の間から声にならない嗚咽を漏らすだけ。
 「お願いだから少し落ち着いて。別に菜月を困らせたいわけじゃないの」
 「ん〜〜〜っ、ん〜〜〜〜っ、ふぬ〜〜〜〜っ!!」
 既に困らせてるじゃないのよっ! と手足をばたつかせても効果無し。物の見事に関節
を抑え込まれて階下に響くほどの振動を起こすことも出来ない模様。
 「……菜月はキス、初めてだったの?」
 「………………………………………」
 ポッと頬を染めながら、こくこくこくと小刻みに頷き眼力でフィーナを非難。
 「そう。じゃあ本当に良かったわね」
 「ふぬぬ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 良くないから! 全ッ然良くないから!! と憤慨。
 「だってこれ、達哉のキスのお裾分けですもの」
 「!?」
 ぴた、と菜月の動きが止まる。



 「ね、見て?」
 再び近づいてくる同性の桃色のリップに釘付けになってしまう菜月。
 「達哉は毎日、この唇を愛してくれるの。何回も、深く、キスでとっても気持ち良く
してくれるの。もちろん一番奥まで。とてもとても幸せにしてくれるの」
 ちゅ、と額を啄まれても今度は抵抗しない。
 「菜月のことは大好きだけれど、達哉だけは譲れないわ。だけど………ちょっとだけ
菜月にも私の幸せを分けてあげられたらって」
 ちゅちゅ、と少し強めに頬を吸われるのが不思議と心地よい。
 「だって、同じ人を好きになった物女の子同士だから」
 手が外され新鮮な空気が肺を満たす。が、もう暴れようとも大声を出そうとも思えな
かった。深く涼しげな光りを湛えた瞳が凄く綺麗だ、と見入ってしまうだけ。
 「だから私からの贈り物……達哉の間接キスを受け取って?」
 そっと瞼を閉じるフィーナ。菜月もそれに習い、今度は素直に受け入れる。二度目の
キスは互いの気持ちを確かめ合うように優しい愛撫から。恐る恐る吸う菜月に合わせて
強さと角度を自在に変えながら、フィーナは甘噛みで菜月の官能をゆっくりと引き出し
てゆく。
 (キスって不思議。口をくっつけてるだけなのに、こんなに気持ちいいなんて)
 求め合うことで満たされる心。達哉がキスしたのと同じ口にキスをしているんだと思
うだけで気持ちよさが膨らんでくるような気がする。初めて感じる他の唇をもっと良く
知りたくてあちこちに吸い付いていると、少しだけ固い何かが遠慮がちに菜月の口をノ
ックしてきた。
 (あ……これって……)
 中に入っても良い? と尋ねてきた小さな舌に、ちょっとだけだよ? と軽く口付け
てから恥じらいつつ入り口を開放する菜月。その隙間を縫ってスルスルと侵入してきた
フィーナの甘い唾液がネットリと菜月の舌にコーティングされる。体内の粘膜を他人に
明け渡す背徳感と開放感。最初は軽い挨拶を、次にソフトなタッチで握手を、そして絡
み合う愛の交歓へ。ゆっくりと導いてくれるフィーナに従い、菜月の舌も徐々に本格的
なダンスを舞い始める。
 


 いつしか豊満な乳房を押し付け合い、腕を回し足を絡め合う二人の少女は斜めに差し
込む月明かりに照らされながら、更に口吻を深くしてゆく。相手の唇を頬張り、根本ま
で舌を絡みつかせて相手のそれに自分の唾液をマーキングする。溢れ出す愛液が自分の
下着のみならず密着し合った相手の寝間着まで湿らせてしまうのも構わず、少女達は夢
中でキスを交わす。
 (これ、達哉も飲んでるんだ、ああ甘くて美味しい……!)
 味覚に依らない甘さ。舌ではなく喉で感じる甘味に酔い痴れながら、菜月は次々と流
れ込んでくるトロトロの唾液を喉を鳴らして嚥下する。その間もフィーナの舌は休み無
く動き回り頬の裏、歯茎、そして全ての口内粘膜や歯の一本一本に至るまで丁寧に菜月
の中を塗りつぶしていた。
 「んぁっ」
 「………………はぁ……」
 そして時間の感覚すらあやふやになるまで官能を分け合った二人は、どちらともなく
キスを解き再び見つめ合う。下になった菜月の口の周りから頬に至るまで、垂れて流れ
たフィーナの唾液でべとべとになっていたが、不思議と嫌悪感は感じない。それよりも
言葉に頼らず照れ笑いで気持ちを伝え合う今という時間が、たまらなく楽しい。
 「ね、菜月?」
 先程までは何処か空恐ろしかったフィーナの淫靡な笑みが、いまは美しく愛おしくて
胸をときめかせてくれるのは、菜月の中の何かが変わったからだろうか?
 「……うん?」
 「菜月は、何か達哉に送りたい物……あるかしら?」
 「あ……えっと………多分……うん」
 「それは、その………私から達哉に渡した方が良い物?」
 「そ、その方が良い……かも。あと、できたら内緒で……」
 「じゃあ、いまここで預かっておきましょうか?」
 「そ、そそそ、ソウダネー………」
 「では、どうぞ」
 フィーナの誘導でクルリと入れ替わった二人は、そのままクスクスと恥ずかしそうな
笑みを交わしながらベッドに沈んでいった。