7-684 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2008/01/17(木) 04:50:49 ID:kKWYMNv+

 他に人気のない王宮の回廊。
 水はおろか大気すら存在しない衛星の地表に建設されたシェルター内部の建
造物とは思えない程に巨大で古めかしく、そして静かな廊下。母星の中世期を
思わせる石畳を一人走り続ける小柄な少女は、自分が立てる駆け足音
の大きさにすら気付ぬ程に固く目を閉じたまま、更に大きな音と共に自室に逃
げ込んだ。
 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」
 小さな肩を上下させ、真っ赤に染めた顔から熱い息を繰り返し吐き出しなが
す彼女、ミア・クレメンタインの頭の中ではつい数分前、偶然にも盗み聞いて
しまった会話の内容が鼓動よりも空調の音よりも大きく巨大な鐘の音のように
何度も何度も繰り返されていた。


 「そ、それは………余りにも急すぎるのでは?」
 「そのようなことはない。いや、むしろ遅すぎたのかも知れぬ位だ。」
 「しかし、まだ姫が戻られてから間もなく、達哉殿の今後の処遇さえ決めか
ねている状態で、そのような大事を陛下に申し上げるのは……」
 「そのような状態だからこそ、御進言申し上げるべきなのだ。良いか卿、こ
れは我々だけの問題ではない。王家や国家、いや、それどころか地球圏全ての
命運を左右しかねぬ重大事なのだ。一刻の猶予もならん!」
 「ち、地球圏全土の?」
 「考えてみるのだ卿。私が思いついた以上、既に奴らも同じ結論に至ったと
考えて良いのではないか。となると……」
 「ま、まさか!」
 「そうだ。もはや躊躇などが許される段階は過ぎているのだ。しかも椅子の
数には限りもある。このような言葉を使うのは甚だ不本意だが、早い者が勝つ
となった以上、我々は我々の武器を使うしかあるまい。」
 「し、しかし達哉殿はその……地球の庶民の出だと……」



 「姫様ご自身がお選びになったお相手あらせられる上、御前会議の場で陛下の
お許しも頂戴したのだ。確かに我らとしては釈然としない物も残るのかも知れ
ぬが、こうなった以上は考えを改め達哉殿を我らの側に据え置く算段を練るべ
きと思う。さすれば姫様……いや未来の王妃様のご助力も頂きやすくなるとい
う物だ。しかもな?」
 「は?」
 「達哉殿は『あの』クラヴィウスが推挙した男にして、穂積さやかとも家族
同然の間柄と聞いておる。姫様が仰せになった地球との外交に関して、現状で
あの二人以上に太いパイプはあるまい? そして達哉殿の身柄はこちらが抑え
ておるも同然なのだ。達哉殿の存在を友好の証として前面にて押し大々的にア
ピールすれば、地球側も『それなり』の配慮をせねばなるまい?」
 「な、なるほど……」
 「それにな卿。達哉殿が庶民の出という事実さえ、考えようによっては我ら
の武器となるのだ。姫様と違い王家の人間としての振る舞いをご存じない達哉
殿は、陛下や姫様と比べ遙かに情に脆い。先に手さえ打っておけば、『公平な
外交』を進める上で我らの言葉にも耳を傾けて下さるだろう。」
 「公平な外交……」
 「御前会議で姫様が仰った通り、我らと地球では兵力の差が余りにも大きす
ぎるのだ。いまのまま交渉に臨んだ所で、こと貿易面での優位を盾に理不尽な
要求を突きつけられぬとも限らん。これは月と地球とが対等な関係の上で友好
を築くために必要な『最も平和的』なカードなのだ。」
 「……………」
 「どうだろう卿? 我々の為、ひいては月人や姫様の為にも私に力を貸して
は貰えぬか? 先に申した通り、奴らとて遅かれ早かれ同じ考えに辿り着き手
を打ってくるだろう事は明らかだ。そうなった時、我らと奴ら、どちらの側が
月と地球をより良い未来に導けるのかを考えてみてくれまいか?」
 「……して、卿は具体的にどのような手を?」
 「うむ。卿も知っての通り、達哉殿の登場で手の内の全てを失ってしまった
のは我らも奴らも同じだ。無論、札が全くない訳ではないが、いまから満足な
役を仕立てていては時間がかかる。故に此処は、少々乱暴にでも先手を打って
奴らよりも先に足下を固めてしまうのが賢明だと思う。」



 「そ、それでクララ様を……!?」
 「後手になってしまうとは言え同じ手を打ちたいと考えている以上、奴らも
反対に回ることはあるまい。ならば、それを逆手にとってお許しを頂戴してし
まえ良いのだ。いかに陛下といえど御前会議での総意を御一人で無下になさる
ことは容易ではあるまい。つまり我らの結束さえ確固たる物に出来れば御前会
議でのご決裁は頂戴したも同然となると言えよう。だが、それはあくまでも第
一段階に過ぎぬ。」
 「…………………」
 「陛下はもとより姫様に我らの意を汲んで頂くには、クララ殿は必要不可欠と
言えると思う。なんと言っても姫様の乳母様であらせられるのだ。政治上の公的
権限こそお持ちはでないが、クララ殿の発言力は我らのそれを上回る事さえありう
るのだ。しかも、クララ殿のご息女は姫様の身近でお世話をなさっておられ、先
の地球訪問の際にも唯一ご同行を許されておられる。当然ながら、達哉殿とも親
しい筈。となれば……」
 「まさか……ミア殿をですか? しかしミア殿は……」
 「それに関しても、こと此処に至っては白紙撤回するしかあるまい。確かに
重荷となるのは避けられぬが、あの娘ほど姫様や達哉殿に近しく年齢も身分も人
柄も適した人物も他にはおるまい? なに、事が事だ。すぐに結果を出さずと
も何を問われるという事でもあるまいし、その際には我らが擁護に回れば良い
だけのこと。重要なのはあの娘を我らの側から立て、達哉殿の側に置いたとい
う既成事実なのだ。さすれば奴らとて、あの娘に不用意な手出しは出来なくな
る。あの娘……ミア殿と申したか……にとっても、駒扱いで翻弄されるより
は姫や達哉殿に末永く仕える方が良いであろう。なにせ、事が成就した暁には
推挙した我らでさえ触れることも叶わぬお方となるのだからな?」



 「……わ……わかり申した。」
 「そう……か、それは有り難い。卿に手を貸して貰えるとなれば百人力を手
にしも同然だ。善は急げとも申すし、卿には早速手を貸して欲しいのだが
、どうだろう?」
 「……御前会議の根回し……ですか?」
 「左様、先ずは次の御前会議で陛下のご決裁を頂かねばなるまい。卿には我
らの側の結束力の確認と、奴らに対しての情報戦の準備を整えて欲しい。私は
クララ様の説得と、両『殿下』の足止めにかかる。当面は達哉殿への反感を持
つ者からの防備、という名目で警備を強化しておけば姫様の動きもある程度封じ
ておくことが出来ようが、恐らく時間稼ぎにしかならぬ筈。それに、なにやら
教団の手の者も徘徊しておるとの報も耳に入っておる。万全を期すためにも絶
えず監視しておく必要があるであろう。」
 「では、早速……」
 「うむ。では次の御前会議にて陛下に側室制の復活を………」


 側室、と言う言葉の意味くらいはミアも知っている。要するに次の時代に王
家直系の世継ぎを確実に残し、あわよくば不測の事態に備えての第二継承者
以降の『予備』も………という目的で国王に王妃以外の女性を宛がい子供を産
ませるための王室制度の一つ。十数代前までの王家では実際に用いられていた
制度だが、月都市群が復興を終え生存環境に余裕が出来た貴族達が王家派と
反王家派に別れ政治的な抗争を始めた頃に廃止されたと聞いたことがある。
 「………でも私が、達哉さんとなんて……」
 月と地球が決別して早千年以上経つ。細々とながらも交流があり混血児も
存在すると言われている月人居住区の住民ならともかく、純血の月人である
フィーナ姫と地球人の達哉との『血の違い』と指摘する声は、フィーナ姫が
衝撃的な帰還を果たし参上した御前会議直後から上がっていた。植民時代や
衛星間戦争集結の折りに遺伝子改良を受け、地球とは違う人工環境下に適応して
独自の進化を歩み始めた新人類の末裔である姫君が純地球人の子を宿せる可能性
は限りなくゼロに近いのではないか、という理由から王家存亡を盾に達哉を排除
しようという反地球派の抵抗である。



 「……私が……達哉さんと、あんなことを……なんて……」
 貴族達のそんな無粋な声に負けないため、そして互いに絆を深め支え合うため
に達哉達が毎夜のように愛し合っている事をミアは知っている。直に見聞きする
ようなことをしなくても、地球から戻って以来二人の寝所の片付けはフィーナの
命によりミアだけに任されているからだ。明くる朝に部屋や寝具に染みついた
様々な体液の残り香や、行為の後に身を清めた痕跡だけで誰でも分かってしまう。
 「………私、が……」
 王姫の忠実な筆頭侍女とは言え、ミアも年頃の少女だ。二人が愛し合うための
行為そのものに興味がないわけがない。洗い清める前の下着やシーツに染み込んだ
愛液や精液の香りに下腹部の疼きを感じた事もあるし、不敬だと知りながらも主達
の行為を想像し背徳感に苛まれながら自分を慰めた事さえある。だが………
 「………んっ……ぁあ……!」
 脇目もふらずに走り続け乱れた吐息は、何時の間にか別の熱さを帯び、幾重にも
着重ねた給仕着の奥で小さな乳首が隆起して下着を押し上げ始めている。様々な
困難に打ち勝ち愛しい人を力強く支えている彼女の姫様の恋人は、彼女自身にとっても
理想的な男性像。立場上他の異性との接触のないミアにとって、もはや憧れという
枠に収まりきらない『抱かれたい男性』のナンバーワンどころかオンリーワンに
なりつつあるのである。
 「んくっ、達哉さぁん……」
 細い指で服の上からなぞっただけで、乳首から電流の様な快感が沸き上がっ
全身を駆け抜けてゆく。とくとくと鼓動に合わせて分泌される淫液を押しとどめ
ようと内股になってしまう足にも震えが走る。頭の中で蘇る精液の匂いが鼻孔を
通して脳内の快楽中枢を刺激して無垢な少女の躰を淫靡に変貌させてゆく。
 「だ、だめなのに……いけないのに、姫様の……なのにぃぃ……!!」
 誰よりも大切なフィーナ姫の恋人、いや夫に抱かれる。実際の性知識など皆無な
ミアだが、全裸となった自分が達哉の素肌で抱きしめられると想像しただけで
体内の受精器官が切なげに脈動を始めてしまう。許されないという罪悪感さえ、
今のミアには催淫剤となってしまい、側室になれれば許されるという期待感が全身の
素肌を熱く火照らせてゆくばかり。



 「達哉さん、達哉さん……好き! 好きなんですぅっ……!!」
 目を上げると、そこには物言わぬ壁がある。だが、その壁一枚を隔てた先は
フィーナ姫達の寝室がある。いま、こうしている間もフィーナと裸体を絡め合い
愛し合っているかも知れない達哉に向かって、ミアは届かない愛を告白する。
 「姫様の次で良いです! ですから私も……!!」
 『愛してください』
 『ううん、愛してあげたい』
 『そうして、全部捧げたい』
 残った片手が『それ』自身の意志で股間に伸びるが、最後の自制心で固く閉ざ
された太股に阻まれ侵入する事が出来ない。漏れだした粘液でドロドロに汚れた
純白のショーツを指先で引っ掻いても、渇望に似合うだけの快感は得られない、
が……
 「達哉さん、全部差し上げますぅ! 私を全部差し上げますから、私の事も
愛してください……ぃぃぃっ!!」
 無理矢理押し入った指先が、未だ包皮に包まれたままの幼い淫核に偶然触れた瞬間、
それまで押しとどめていた想いが破裂する様に快感が爆発し、少女は冷たい床の上に
崩れ落ちた。
 「……好き………達哉さん、好き……なんですぅ……」
 一気に溢れ出した愛液が、まるで粗相をしてしまった時みたいに下着の内側に
満ち重く染み渡ってゆく違和感を心の片隅で感じつつ、ミアは涙で揺れてしまう壁に
向かって何度も何度も呟いていた。